9章 ピチューを救え!

「……言っても、誰にも言わない?」
「えぇ!」
「……変な風に見ない?」
「もちろんよ。あたし達親友じゃない」

カスミのあっさりと放った「親友」という言葉に驚く。しかし、その言葉で何があっても味方だと言ってくれているように感じた。ミズカだって、カスミは親友だ。ミズカはゆっくりと歩み始めると、意を決して口を開いた。

「あたしの家って、結構家計が苦しくて、あたしが幼稚園の時から、お母さんがずっと夜の仕事をしてるの。だから、夜、家では弟と二人きりでいつも弟が寝た後にここに来てる」
「お父さんは?」
「帰ってくるよ。でも帰るのは深夜。何回か、朝帰りの時もあった。その時は、すごい勢いでお母さんとお父さんはケンカしてたっけ……」
「朝帰りって……、ミズカと弟が二人だけでいるのに?」

カスミは目を見開く。弟が小さい話はミズカから聞いている。ポケモン世界は十才で旅ができるが、そうでないこともカスミは既に聞いていた。だったら家にはある程度大人の家族がいるはずだということも理解できていた。

「……うん。実はお母さんとお父さん、あまりうまくいってないの。朝帰りするくらいなんだから、多分お父さんは浮気してると思う」
「浮気って? ……そんなわけないじゃない」
「……そうなの」
「なんでそう思うのよ?」

次から次へと出てくるマイナスの単語。カスミはミズカの抱えている問題の重さを感じる。話したくないはずである。

「わからない……。わからないけど凄くそんな気がするの。だって、お母さんはお父さんと離婚するって言ってるんだよ? しかも、二年前から……」

ちょうど二年前。ミズカがポケモン世界に行けるようになってから、そんな話題がよく母親の口から出るようになった。カスミが眉間にシワを寄せて、真剣に聞いてくれる表情にミズカは少し救われる。

「そんな、じゃあミズカと弟はどうすんのよ」
「もし離婚したら、あたしはお母さんのとこに行くつもりよ。弟もそうだと思う」
「でも、それじゃ……」

父親と会えなくなる。さっきミズカは父親との思い出を話した。たとえ、父の浮気が本当だとしても、ミズカにとっては父親には変わりない。ごくりと息を呑んだ。

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