9章 ピチューを救え!

「これだけあればいいよね!」

チコリータがミズカから薪を持ちたいと、つるのムチを伸ばす。ミズカはそれを渡すと、カスミの薪を半分持った。二人はさっき来た道を戻っていく。

カスミは無理に笑うミズカに首を傾げる。さっきの表情は一体なんだったのかと。おそらく、ミズカが突っ込まれたくないことだ。それでもカスミは堪えきれず、とうとうミズカに聞いてみた。

「何かあったの?」

顔を覗く。ミズカから表情がなくなった。

「何もない」

そういったミズカはもう笑顔を作れなくなっていた。硬い表情。けれど、言いたくなくて口を閉ざす。カスミから目を逸らすと、カスミより前を歩く。

「ミズカ!」

それを止めたのはカスミだった。カスミはミズカの肩に触れる。ミズカが立ち止まったのに、少し安心した。ミズカの顔をじっと見る。ミズカは顔をしかめた。

「何? 本当になにもないよ。いちいち気に……」
「うそでしょ! 何があったのよ!」

ミズカが言い終わる前にカスミが遮る。

「だから、何もないって!」

ミズカは少し怒った口調で返した。触れてほしくない。ここにもとの世界の話を持ち込みたくはない。それなのに、カスミはお節介をしてくる。

「あるんでしょ! どうしてそんなムキになるのよ!」
「だって……」

ムキになっていることを言われて、ミズカは下を向く。エーフィとチコリータが心配した顔を見合わせている。

「……あたしじゃ言えない?」
「違うよ……」
「じゃあ……、どうしてよ」

カスミも本気で心配しているのがわかる。もとの世界でも誰にも言えないことをここで言っても良いのだろうか。リキヤだって知らないことだ。

だが、逆に言えば、もとの世界でのことを元の世界では間違っても話せないが、ここでなら言えない話ではなかった。カスミは自分の家族のことを知らない。薪を抱える腕に力が入った。
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