8章 気持ちの正体

「なんか胸の奥がチクッと痛んだからかな?」

ミズカが胸に手を当てて答えると、サキコ達は顔を見合わせる。サキコは紙袋を持って、本格的に漫画を詰め始めた。

「ん? サキコちゃん……?」
「ミズカちゃん。それは恋よ! 一目惚れしたんでしょー!」
「は、はい?」
「だから、恋!」

サキコは無理矢理にミズカに紙袋を押し付けた。少女漫画がずらりと入っている。

「いや、それはないと思うんだけど……」
「ちゃんと自分で確認しよー」
「確認……」

助けをリキヤに求めると、彼は面倒らしく目を逸らした。

「ミズカー。本当にそいつに会うとき、俺に言って。一緒に行く」
「いや、それは……」
「会える距離なんだろー?」

カナタに言われる。まだその話は流れていなかったらしい。ミズカは三人の思い込みにため息が出てきそうになる。それでも、はっきりと否定できないのは何故なのか。

「どこにいるの? そいつ」

カナタは真剣にミズカに聞く。ミズカはにっちもさっちも行かなくなった。これは言わないと帰ることを許してくれそうにない。

「……違う世界」
「え?」
「だから、違う世界の人」

正直に答える。すると、サキコ達は呆れた顔でミズカを見た。そして、リキヤはゲームに戻り、カナタはムッとした顔を浮かべる。

「そんなに教えたくないかー」
「ミズカちゃん。言いたくないなら言いたくないで良いじゃない。そんなバレバレのウソ言われても困るよ?」

誰も信じなかった。ミズカは本当だと言っても怒らすだけだろうと察する。ミズカはムッとしながらも、黙った。サキコはサンタクロースは信じるのに、こことは違う世界があるという話は信じないらしい。

そのまま話は流れたのだが、結局、サキコには少女漫画を貸し出され、読むことになった。家に帰って、早速一巻を取り出す。

少女漫画の内容は、とても面白かった。イケメンの転校生に初っ端からブスと言われた主人公が、そのイケメンを好きになってしまう話。最初、主人公を好きじゃなかったイケメンだが、主人公のことを知る度に惹かれていく。最後は結ばれて終わった。

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