8章 気持ちの正体

「あ、笑った! そういうリキヤだって好きな人――」
「俺、いるってこないだ言わなかった?」

ミズカはハッとする。そうだった。二人で遊んだときに、同じクラスのスミレが好きだと教えてもらっていた。そのときはまったく気にしなかったが、ミズカは少しリキヤから遅れを取った気分になる。

「ミズカはなー。自分に鈍感」

カナタがポケモンの技を選びながら口を開いた。言われたい放題だ。

「鈍感って……。サトシじゃないんだけど」
「ほら、そうやってすぐポケモンに例えるでしょー。……胸に当ててみて、本当にいないのー? リキヤくんはー?」
「俺を巻き込むな。俺が好きなのはスミレ」
「えー、お似合いなのに。よく二人で遊んでるでしょー?」

サキコの暴走にミズカとリキヤはため息をついた。この勝手な周りの妄想は今に始まったことではない。ミズカもリキヤも、互いに両想いだと勘違いされることが多かった。確かに、お互いによく遊ぶ。なぜなら趣味が同じで、よく知っている仲だから。ともすると家族に近いようなイメージ。実際に大人からは兄妹に間違われることもしばしばあった。それだけだ。

ミズカからすると、サトシとの関係に近いものを感じている。だからこそ、ミズカは恋愛を知らないまでも、サトシに対して恋愛感情はないと断言できた。

「遊んでるからって恋愛対象にならなくね? だったら、サキコも恋愛対象になるし。それ、俺、ヤバイ奴」

ミズカはちゃんと説明するリキヤを見て、少し大人に感じた。

「ふーん。ミズカちゃんは本当にないのー? この人がどうしても気になるーとか」
「……」

刹那、シゲルの顔が思い浮かんだ。

どうしても気になる……。その点だけでいうと、シゲルは当てはまる。だが、それが恋愛? まさか、とミズカは首を横に振った。

「あれ……、もしかしている?」
「いや、ちょっと違う意味で」
「違う意味?」

サキコに掘られる。リキヤとカナタのバトルがちょうど終わった。結果はカナタの勝利だったが、リキヤはけろりとしている。まったく悔しそうではない。そんなバトルを終えた二人は、ミズカを見た。

「違う意味って?」

リキヤが聞く。

「うーん。なんかね、こないだ知り合った人がいるんだけど、初対面で顔をしかめられて……。なんでかなぁって」

ミズカの言葉にリキヤは首を傾げた。そんな話は初めて聞く。いつの話だと聞きたくなったが、話の腰を折るような気がして、口を閉ざす。

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