8章 気持ちの正体

「なんでそんなに会いたいのよ?」
「うーん。なんでかって言われると難しいんだよね。でも、胸がモヤモヤする」
「モヤモヤ……」
「放っておけばいいのはわかってるんだけど、なんか胸の奥がチクッとする」

カスミはモーモーミルクを口の中に運びながら考える。
カスミはシゲルのミズカに対する最初の態度を見ていない。しかし、一緒に夕食をとったときは明らかに変だった。

ミズカが気になるのも無理はない。しかし、ミズカは嫌われているように感じているようだが、カスミの目には、シゲルが思い詰めているように見えた。思い詰める表情なんて見たことはない。いつも自信家であり、余裕もあって、サトシを煽ることもしばしばの彼があんな悩んだ表情を見せるようには思えない。

「ねぇ、ミズカ」

モーモーミルクを美味しそうに飲んでいるミズカに話し掛ける。ミズカは口からモーモーミルクの入ったグラスを離した。見事にミルクの髭ができあがっている。

「口の周り拭きなさい」

カスミにそう言われて、ミズカは苦笑すると、近くに置いてあったティッシュで口を拭いた。  

「そんなに気になるの?」

それでも、ミズカに対して良いことではない内容なのは確かなはずだ。だったら、止めたほうが良いのかもしれない。カスミはそう考えていた。

「うーん。だって、アニメで見たことない表情だったんだよ? 皆に対してもだけど、知らない一面を知ったら、もっと知りたいって思うじゃん。それはポケモン達も同じかな」
「知らない一面を知りたい……」
「後は自分の気持ちも整理したい。このチクッとした痛みって何なんだろうって。シゲルを見る度になるんだよね」

知らない一面を知りたい。放っておけばいいのに、放っておけない。胸の奥がチクッと痛む。カスミはその症状の正体を知っている。

まさか初対面でそれはあるのだろうか。いや、ミズカはシゲルをもともと知っているはずだ。自分たちの旅がアニメでやっているのなら、彼がいるときも映されている。だから、昨日だって、こちらの世界に来たのではないか。

「ふーん」

カスミはそれしか言わなかった。ミズカの抱いている気持ちの答えは、ここで言うにはまだ早い。確かにお節介を焼くことはしばしばだが、傷つくかもしれないことに首を突っ込みたくはなかった。

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