7章 チコリータはチコリータ

「ちょっと、進化だけの問題じゃないでしょ! ミズカはバトルのパターンを沢山覚えないと」
「ポケモンばかりに頼ってる場合じゃないよね。よし、次はピチューかな」

ミズカは気を取り直してピチューを出した。チコリータはエーフィの隣に行く。

チコリータはピチューの特訓を見ながら考える。自分は進化をするべきか否か。もちろん、進化を考えていないわけではない。さっきのベイリーフとのバトルだって、あのままやっていたら負けていただろう。だったら、自分の力を発揮するために進化をしても良いのかもしれない。

しかし、チコリータの中では抵抗があった。師匠フシギダネはフシギダネのまま強くなっている。自分もそうなりたいという憧れがある。それから、もし次、前のトレーナーに会ったら……。そのときはチコリータのまま強くなれることを証明したかった。
 
「みんな、お疲れ! ……チコリータ、どうしたの?」

いつの間にか、ピチューの特訓は終わっていた。チコリータは俯いている。

「チコ……」

ミズカは首を傾げる。なぜこんなに落ち込んでいるのだろう。そう考えてミズカはハッとする。

「もしかして、進化できなくて悩んでる?」

そう聞くと、チコリータはミズカを見つめた。進化できなくて、ではなく、進化したくなくて悩んでいるチコリータは首を横に振った。

「うーん……。ポケモンの言葉がわかればなぁ……」

ミズカは、腕を組んで考える。

「どうしたんだ?」

サトシ達も集まってきた。

「なんか悩んでいるみたいなんだけど、なんで悩んでるのかわからないんだよね」
「進化のこと?」
「進化できなくて悩んでるわけじゃないみたい」

カスミに聞かれて答える。チコリータを見兼ねてか、エーフィがチコリータに話し掛ける。するとチコリータは、エーフィに事情を話し始めた。エーフィはうんうんと頷くと、ピチューとピカチュウを呼び、並べた。

ミズカ達はお互い顔を見合わせる。エーフィは何か伝えてくれるらしい。

エーフィはピチューの前で地面に◯を描いた。ピカチュウの前には✕を描く。

「ピチューが◯で、ピカチュウが✕……」

まだ伝わらないことを思い、エーフィは自分の前に✕を描いた。さらにはチコリータを呼び、チコリータの前には◯を描く。

「進化系が✕ってこと?」

ミズカに聞かれて、エーフィは、うん、と大きく頷いた。タケシが顎を擦りながら「もしかして」と呟く。

「チコリータは進化したくないんじゃないか?」

タケシが言うと、ミズカ達は納得した。どうやら正解らしく、頷くチコリータは不安げにした。

「そっか。師匠フシギダネも進化しないで強くなってるもんね!」

ミズカが声を上げる。なるほど、進化したくないポケモンがいて当たり前だ。サトシのピカチュウだって、ピチューの進化系ではあるがライチュウになることを望まなかった。フシギダネも理由はきっとポケモンたちにしかわからないが、進化することを望んでいない。

だから、チコリータが進化したくないというのもわかる。ミズカは不安げにするチコリータの前にしゃがんだ。

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