7章 チコリータはチコリータ

「さっきはどうしたの?」
「メリープの絵を描いていたんだけど、モデルやってもらってる間に、バトルしてたポケモンがふっ飛ばされてきて、ビックリしてしまって……」
「それで血相抱えて飛んできたんだ」

ミズカは苦笑する。なるほど、人見知りということは、もしかしたら臆病な性格なのかもしれない。そこにポケモンが飛んできたら、ビックリして混乱するだろう。

「あ、貴女のお名前は?」
「ミズカ。あなたは?」
「チヒロっていうの。よろしく」

紹介が遅れて、お互いに名乗り合う。ポケモンたちもそれに倣って、挨拶し合った。

「絵、見たいな?」

メリープの絵を描いていたということが気になって、ミズカはお願いする。チヒロは嬉しそうに頷くと、スケッチブックを差し出した。

スケッチブックには色々なポケモンや人、建物などが鉛筆で描いてある。最後のページはメリープの絵。身体がしっかり書けておらず、途中で止まっている。

「あ、そうだ。ミズカ達を描かせてよ」
「えっ!?」

驚いているミズカを横目に、チヒロはベンチの向かいに体育座りした。

「ミズカはベンチの真ん中に座って。チコリータを抱えたままで……。ピチューとエーフィはベンチの上で、ミズカに寄り添って」

何がなんだかわからないが、チヒロの言われたとおりにする。

「動かないでね」
「う、うん……」

突然モデルにされてしまい、ミズカは戸惑う。固まって座っていると、肩をとんと叩かれた。

「ミズカ?」

ビクッとして後ろを向くとサトシだった。その隣にはカスミもタケシもいる。

「ミズカ、動かないで」
「あ、はい!」

後ろを向いて動いてしまったミズカに、チヒロはスイッチが入っているらしく、ぴしゃりと言う。ミズカは再び前を向いた。

「何してんのよ?」
「絵を描いてもらってるの。あ、そちら、チヒロ」
「どうもこんにちは。ミズカのお友達さん?」

チヒロの表情も絵を描くスピードも落ちない。三人はチヒロのもとに移動しながら頷く。

「はい」
「もしかして、待ち合わせ中だった?」
「いや、見かけたから声をかけただけよ?」

チヒロの絵を三人は見る。ミズカの顔以外、ほとんど描き終わっていた。

「ミズカ、笑顔ちょうだい」
「え、笑顔!?」

ミズカは無理矢理に笑う。すると、3人が笑った。

「お前、いつも笑ってんじゃん。いつも通りに……」
「え、いつも通りがわかんない」
「いや、だから、ほら、こう……」

サトシの説明がまるでわからない。ミズカの代わりにカスミとタケシが笑う。

「ミズカ、まず肩の力を抜きなさいよ」
「いや、力入ってんの? あたし??」

カスミの言葉に混乱するミズカ。見兼ねたチコリータがつるのムチを伸ばす。そして、ミズカの頬につけると、無理矢理に口角を上げる。

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