7章 チコリータはチコリータ

ミズカがポケモンの世界に来ると、町の中だった。比較的、栄えている町で、ビルなどの建物が並んでいる。ここにサトシたちがいても、見つけられるのだろうかとミズカは首を傾げた。とりあえず、たまにはポケモンを出して歩いても楽しいだろうと思い、エーフィ、チコリータ、ピチューを出す。ピチューは肩に乗ってきたので、顎を撫でる。

そこへ、泣いている女の子が前方から歩いてくるのに気がついた。5歳前後に見えるその子は、一人のようだ。ミズカはその子に近寄った。

「どうしたの?」

泣いてる女の子に優しく声をかけた。

「ママとパパがいなくなっちゃって……」

どうやら、迷子になったらしい。ヒクヒクと喉を鳴らしている彼女を見過ごすわけにはいかない。サトシたちを探すのは一度やめることにした。

ミズカは泣き止まない彼女の頭を撫でる。

「わかった。一緒に探してあげる。えっと……、あたし、ミズカ。あなたの名前は?」
「ヒナ」

少し不安になりながらもヒナが答えてくれた。ミズカはニコッと笑う。そして、ヒナの手を繋ぎ、歩き始めた。きっと両親も心配しているはずだ。早いところ見つけてあげたい。

「ヒナちゃんの両親はいますかー!!」

彼女の声はよく通った。ヒナの手を引っ張りながら、ミズカはまずヒナが行ったという店をまわった。

「うーん。確かにこの子と入ってきたけど、探しには来てないねぇ」
「そうですか……」

喫茶店に入ると、店員に首を横に振られた。ちなみにもう3件目。この広い町でどうやったら探せるだろうかと考える。

すると店員が奥からクッキーの袋を持ってきた。

「これ、小腹も空くだろう?」
「いいんですか?」
「この子のために持っていっておやり。それから、この町の端に交番があるから、そこへ行くといい」
「わかりました! ありがとうございます」

ミズカはクッキーを受け取ると、店を出た。教えてもらった交番に向かって歩き始める。途中に、ヒナが寄った店もあり、入ったのだが、手がかりは見つからずにいた。

中々見つからないことがヒナにとって、不安になっている。もしかしたら両親に二度と会えないかもしれない。そう思って顔を歪める。それを悟ったのか、ミズカはヒナに話しかけた。

「ヒナちゃんは、何歳なの?」
「六歳」
「そっか。あたしの弟と同い年なのね」

ミズカの表情は少し嬉しそうだった。今ミズカはもとの世界で9歳。3つ違いの弟は6歳だった。

「お姉ちゃん、弟いるの?」
「そう。すっごく泣き虫なのよ。あの子が迷子になったら、人見知りだし、大泣きされて手がつけられないかな」

弟を思い浮かべて、苦笑するミズカ。すぐ泣く弟は、自分のように世界に放たれたら、泣いてしまうだろうな、と思う。

ヒナにとっては、同い年の男の子がすぐに泣いてしまうという話に面白さを感じた。さっきまで自分は泣いていたが、目の前のミズカのおかげで、安心感を覚えている。先程は不安になったが、ミズカは途中で諦める人ではなさそうだ。

両親を見つけてくれる。ヒナはそんな気がした。同時にそんなミズカの温かさに何故か懐かしさを覚える。

1/8ページ
スキ