5章 秘密

「顔に書いてある」
「え?」
「サトシの事だって」

直球にミズカは言った。つまるところ、ミズカはカスミのサトシに対する好意に気づいていた。それはアニメを見ていても感じていたことだったが、ポケモン世界に来るようになってからは尚更そう思っていたのだ。

もちろん顔に書いてあるはずはないが、ミズカに言われたカスミの顔は赤くなった。

「な、何言ってんのよ! そんなわけないでしょ!」

図星だったらしい。

「じゃあ、なんで?」

無理矢理連れてきたことを聞くと、カスミは「それは……」と濁らせる。

「ほらね。そうじゃん」

ミズカは言った。その言葉の後、二人はそれっきり黙った。ミズカから言っても良かったのだが、カスミが何を言いたいのかが読めない。

好きな人を聞かれるかもしれないし、サトシをどう思っているか聞かれるかもしれないし、応援してほしいと言われるかもしれない。どれが来てもミズカの答えは一つ。ただ、カスミがサトシへの好意を認めないとその答えも言えない。

しばらく沈黙が続くが、やがて決心したカスミは口を開いた。

「ミズカはサトシの事どう思ってるの?」

ミズカのサトシに対する好意を聞きたかったらしい。

「友達として好きだよ」

ミズカはあっさり答えた。

「れ、恋愛感情は?」

カスミは恐る恐る聞く。

「ないよ。だから安心しなさい」

ミズカはにやりと笑う。サトシへは全く恋愛感情がない。完全に友達という感覚。むしろ、ミズカはカスミを応援したかったくらいだ。

「ほんと……?」
「嘘ついてどうすんの?」
「よかった」

カスミは、心の底からホッと息を吐いた。ミズカはますますニヤニヤする。

「へえ~、やっぱり好きなんだ~!」
「ち、違うわよ!」

何故か、この期に及んでカスミはまだ否定する。応援するという言葉を言わせてもらえないではないか、と思う。意地っ張りなカスミに、ミズカは笑い出してしまった。

「何笑ってるのよ!」

カスミは顔をオクタンのように真っ赤にして怒る。

「ごめんごめん。なんか面白くて……」

謝る気のないミズカはまだ笑っている。

「違うって言ってるじゃない!」
「じゃあ、そう言うことにしといてあげるよ」
「しといてあげるって……、ねえ!」

カスミはますます怒りモードに入った。

「まあいいじゃん!」
「よくないわよ!」

街の中にいつまでも二人のにぎやかな会話が響いた。

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