5章 秘密

「ミズカ、上手いな」
「私、ラケット競技得意なんだよね。やると習えって言われる」
「へぇー」

二人とも最初は慣らしで軽く打ち合う。サトシの身体能力の高さはわかっていたが、上手いと言われるミズカの相手を普通にできるサトシが、ミズカはすごいと思う。

「習わないのか?」
「うん。習わないかなぁ。でも、中学生になったら、スポーツやりたいなって思ってるよ」
「中学生……」
「あ、向こうだと中学校までは卒業する義務があるの。今じゃ高校・大学卒業までが当たり前だし」
「へぇー。俺、無理だな」

向こうとこちらでは常識が違う。サトシ達は10歳でポケモントレーナーになれる。義務教育という話もピンと来ないだろう。
さらりと無理宣言をするサトシにミズカは吹き出した。

「中学は何するんだ?」
「テニスに憧れてるから、テニスかなぁ」
「体思い切り動かせて良いな」
「でしょ!」

体が温まったところで、二人は試合することにした。お互いポケモンバトルと同じように真剣勝負。一球入魂し合う。

「やったー!!」

結果はミズカが勝利。得意というのは伊達ではなかったらしい。

「すげぇ」

サトシは思わず感心した。二試合目をやろうと、チェンジコート。室内でやる卓球に二人共楽しくて仕方がなかった。

「おし、いっくぞー」

遠くから声が聞こえる。声の方を見れば、卓球場でカラーバットとカラーボールを持った16歳くらいの少年たちがいる。カラーバットを振り回しており、周りの利用者たちが騒然としていた。

少年たちはあろうことかそこで野球を始める。一人が軽くボールを投げて、一人がカラーバットを振り、ボールを場内で飛ばす。

最初はミズカもサトシもよくわからず、顔を見合わせた。周りも困惑していて、どうしたらいいかわからない様子だ。ミズカ達も、ポケモンがいたらすぐに注意しただろうが、今はいない。状況にもついていけずにいたのだが、何球か飛んで来たボールの最後がサトシの方向に飛んで来た。

「サトシ!」
「うわっ」

サトシは持ち前の反射神経で避ける。しかし、もし当たっていたら、とミズカは考えた。いや、これから他の利用者にも当たるかもしれない。

ミズカは拳を握り、サトシに当たりそうだったボールを持った。

ボールを握る。友達に当たりそうになり、もう周りが見えなくなっていた。

「あ、お嬢ちゃん。取ってくれたの、ありが――」
「こんなところで野球なんかすんな!! 友達に当たるところだったでしょ!!」

ボールを投げる。物凄い勢いの球に少年たちは固まった。

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