5章 秘密

「どうしたの?」

後ろから、声がした。振り向くと、今まさに会いたくないと思った人物がいる。ミズカだ。目をパチクリさせて、こちらを見つめている。

シゲルは下手に彼女を無下にもできず、首を横に振った。

「なんでもない」
「今、誰と話してたの?」
「オーキド博士だよ」

端的に答える。ミズカは「そうなんだ……」と呟く。おそらく顔に出ているのか、ミズカもシゲルとの会話に困っているように見えた。

しかし、ミズカはニコリと微笑む。

「そうそう、夕飯一緒に食べない? 夕飯一人でしょ?」

何も知らない彼女の屈託ない笑顔に、シゲルはどうしたら良いかわからなくなった。

――やっぱり会いたくなかった。

知っている。彼女がサトシに似て明朗快活で優しいと知っているから、シゲルは会わないままで終わりたかった。事実、自分が顔に出しているのをわかっているのに、ミズカは誘いに来てくれた。

複雑な気持ちを抱えながら、シゲルは頷いた。一度知ってしまったら、もっと知りたくなる。

「もう、みんな食堂にいるんだ」
「そうか」

ミズカとシゲルが食堂に着くと、

「ミズカ遅いぜ!」

と、サトシが待ちきれないと言った表情で言った。ミズカは苦笑する。ミズカはカスミの隣に座った。シゲルはサトシに隣に促される。みんな夕食を食べ始めた。

シゲルは目の前に座るミズカを見た。

彼女は何も知らない。本当にそれでいいのかと。サトシを隣にして、なおさら思っていた。

「どうしたの? シゲル……、全然食べてないじゃない」
「食べないと体に悪いぞ」

カスミとタケシが言った。シゲルも喉に何か入れたかったがとても入る感じではなかった。

「ごめん! お腹空いてなかった?」

ミズカが心配そうに顔を覗く。知りたくないのに、知りたい。言いたいのに、秘密にしなきゃならない。シゲルはため息を飲み込んだ。

ミズカは何も知らないのに。ミズカにとって自分は初対面なのに。シゲルはミズカに調子を狂わされている。

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