最終章 別れのとき

「マサトのその正直で素直な気持ち、子供らしくて元気な所が、あたしの力になったよ、ありがとう。立派なトレーナーになって!」
「ミズカ……」

ミズカの言葉に、マサトはそれ以上、何も言えなくなった。彼の目には大粒の涙が溢れてくる。マサトはメガネを外すと、一生懸命にゴシゴシと腕で涙を拭った。

「ハルカ」
「な……に?」

次は既に泣いているハルカに話しかけた。彼女はミズカの顔を見られないでいる。

「あたしがイジメにあって悩んでて、でも打ち明けることが出来なかった時、寄り添ってくれてありがとう。ジョウトでもホウエンの舞姫の力発揮してね」

そう言うと、ハルカは本格的に泣き始めた。ミズカも泣きそうになるが、グッと堪える。

「ヒカリ」

次に呼んだのはヒカリだ。彼女は黙ってミズカを見つめた。瞳は揺らいでいる。

「短い間だったのに、色々と巻き込んでごめんなさい。でも、大丈夫って言ってくれてありがとう。あたしもヒカリに会えて良かった。コンテスト、応援してる」

ヒカリは、ミズカが涙をこらえてる事を悟った。ミズカが釣られないように、後ろを向いて大きく頷いた。ミズカからは見えないがヒカリの瞳から涙が溢れてくる。

「タケシ」
「何だ」

タケシを呼ぶと、彼は優しく聞いた。

「料理、美味しかった。ネガティブなことばかりなあたしに、自分の存在がどれだけ大きいものか教えてくれてありがとう。タケシのこと尊敬してる」
「あぁ」

ミズカの言葉にタケシは、二、三度頷いた。目に涙が溜まり、これ以上何も言えそうにない。

「カスミ……?」
「……な、何よ」

カスミは俯いていた。地面はポタポタと涙で少しずつ滲んでいる。

「今まで色んな事で相談に乗ってくれてありがとう。それから、迷惑や心配をかけてごめん。……カスミは一番のあたしの親友だよ。それは向こうに帰っても絶対に変わらないから!」

カスミは、泣きじゃくった顔を見せた。カスミとミズカは互いに抱き締め合った。二人はそう思える存在ができて幸せだ。しかし、親友と別れなければならないのは凄く辛い。ギュッともう一回抱きしめて、二人は離れた。

「シゲル」

シゲルに話しかけると、彼は少し困った表情で笑った。

「二年前のこと、ずっと秘密にしてて辛かったよね。ごめん。でも、それでもあたしのことを好きだと言ってくれて凄く嬉しかった。ありがとう。シンオウでの研究頑張って」

シゲルはミズカに頷くが俯いた。昨日の抱擁を思い出す。胸がギュッと痛い。いい加減、ミズカも涙が溜まってきていた。最後は一人。一呼吸おく。

「サトシ」

少し気持ちを落ち着けると兄の名を呼んだ。
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