最終章 別れのとき

「良いバトルだったぜ!」

サトシはそう言って、ミズカに近寄った。

「うん! 楽しかった」

ミズカは頷き、ニコッと笑う。最後は笑って別れたい。ミズカとサトシはどちらからともなく拳を合わせた。エーフィとピカチュウも真似をする。そして、にっこり微笑み合った。

仲間たちは、そんな2人をみて胸を撫でおろす。サトシが記憶を取り戻してから、少しぎこちなかった。そんな2人の関係をどうすればよいかわからなかったが、バトルが解決してくれたようだ。

「皆も、本当に楽しかった。ありがとう」

ミズカはお礼を言う。仲間達は笑顔で頷いた。ミズカは手鏡をポケットから出す。持つ手は震えた。落とさぬよう、手鏡をギュッと持つ。

帰りたくない。本当はずっといたい。そんな気持ちが込み上げてくる。

「お前さん達、準備が出来たぞ」

オーキドが声をかけてきた。隣にはシゲルもいる。シーンと静まった。オーキドの案内で庭の奥に行くと、四角い光りが七つあった。

「この光りは?」

ヒカリが聞く。

「お前さん達が通る道じゃよ。本来いるべき所に連れて行ってくれるじゃろう」
「本来いるべきか……」
「という事は、ここで皆で集まった事も忘れるかも……」

タケシが微妙な表情を作ると、隣でハルカが言った。もともと、ミズカの事件に巻き込まれ、ここに集まる形となった。つまり、ミズカの記憶がなくなると同時に、ヒカリが会っていなかった、カスミやハルカ、シゲルやマサトの記憶はなくなる。

次に会った時は、「初めまして」となるわけだ。

「あれ、でもミズカはどうするの?」

マサトに聞かれ、ミズカは手鏡を出した。そして、みんなに背を向けると、ドアを出した。

「これを割って、ドアの向こうを通ったら、あたしも皆も記憶を失う」

こちらとあちらを往来するのに見慣れた光景も今日で最後。ミズカは寂しげに、ドアの向こう側を見つめた。光の向こうには自分の住む世界がある。家族がいる。友達もいる。

だが、別れが目の前まで来ていると思うと堪らない。ミズカは下唇を噛み締めた。帰りたくないは言わない。

しばらく、沈黙が続いた。みんな、何と言えば良いのかわからない。ミズカの背中しか見えない。だが、何を考えているかはわかる。ミズカは必死で葛藤している。

ミズカは拳を握った。自分がやらなきゃ、みんなが困る。少し俯きがちになりながら、それでも精一杯声を張りながら、ポケモン達に指示した。

「エーフィ、スピードスター。ピチュー、プラスル、マイナン、レントラーは十万ボルト。チコリータはハッパカッター。サーナイト、マジカルリーフ。バシャーモは火炎放射。チルタリスは竜のいぶき。皆、空に向けて技を一つにまとめて!」

ポケモン達は、彼女の指示通り技を出す。一つにまとまった技達を見て、ミズカは涙を堪える。笑って別れると決めた。ここで泣いたら台無しだ。 

ミズカは、ずっと使い続けてきた手鏡を見た。ギュッと握る。やっとの思いで、決心する。技が一つにまとまった箇所に、手鏡を思い切り投げつけた。

「あ!?」

この場にいた全員がミズカの行動に驚いた。手鏡は、技の中で散っていく。見てるのは辛かったが、ミズカは目を逸らさなかった。今までの思い出が蘇る。泣きそうになり、仲間達に再び背を向けた。

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