最終章 別れのとき

「負けるな、こっちも電光石火だ!」
「ピッカ!」
「かわして、スピードスター!」

ピカチュウは機転を利かし、電光石火。しかし、エーフィに躱され、またも技を喰らった。

「サトシが圧されてるかも」
「エーフィはスピードが速いからな。うまく使っている」

冷静にハルカとタケシが試合を観ていると、マサトが何かに気づいた。メガネを通して見える景色を不思議がる。エーフィを指さした。

「エーフィ、どうして尻尾を振ってるのかな?」

エーフィが尻尾を振っているのだ。遠くから聞こえるマサトの声に少し身体をピクリと反応させる。ミズカも気づいていた。

「ホントね。でも大丈夫!」
「どうして?」

ヒカリがニッと笑う。何か知っているらしい。マサトは首を傾げた。

ミズカもまた、マサトと同じ様に首を傾げていた。エーフィのことだから、何か考えがあるのはわかっている。しかし、意図までは掴めない。

「ミズカ、アイアンテールよ!」

カスミが叫ぶ。アイアンテール……、エーフィは持っていない。しかし、考えてみれば、覚える時間はあった。ミズカが父親に刺され、ポケモンセンターから一歩も出れなかった時だ。

きっと、まだマサトが来ていない時にカスミ達が付き合ってあげていたのだろう。ミズカは口角を上げる。もちろん、サトシと自分に気を遣ってくれたのが大きいだろう。

しかし、エーフィがバトルしたいのはその理由だけではなかった。

「そっか、そう言うこと」
「ピカチュウ、ボルテッカー!!」
「ピカピカピカピカー!」

ピカチュウは電気を身体から放出し始めた。物凄い勢いで走ってくるピカチュウ。躱すには無理がありそうな距離だ。

「エーフィ、アイアンテール!!」

ミズカの口から咄嗟に出た。

エーフィは空いている時間に少しでも強くなりたかった。ノリタカからミズカを守りたかった。しかし、もう別れ。それならば、バトルをできないか。それが、ミズカとサトシの仲が本当の意味で戻るきっかけにならないか。

別れの前の、ちょっとしたプレゼント。

「フィー!!」

エーフィは何の躊躇いもなく、アイアンテールを繰り出した。

「ピッカー!!」

アイアンテールはピカチュウのボルテッカーと激突する。無論、ボルテッカーの方が強い。しかし、エーフィはアイアンテールで技の威力を半減させた。

ピカチュウは最初のうちにダメージを喰らい、エーフィはボルテッカーのダメージが大きいようだった。二匹とも、息が上がっている。もう長くはバトル出来ないだろう。

不意にミズカとサトシは目が合った。

ミズカは最初にサトシとバトルした頃を思い出す。無我夢中で、サトシに食らいついていた。あの頃は、サトシとの友達以外の関係なんて考えたことがなかった。

最高の友達で、ミズカの目標とする人。彼とバトルするときはいつでもワクワクした。今だってワクワクしている。
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