最終章 別れのとき

「ここからじゃ聞こえないかも」
「大分、離れているからね」

ハルカは部屋の窓を開けてミズカとスイクンを眺めていた。会話を聞こうとするが、声が聞こえない。シゲルが苦笑した。

「でも嬉しそう」

ヒカリがニコッと笑って言う。自然と仲間も笑顔になった。ミズカがスイクンと別れて、ポケモン達と戻ってくるのが見える。

「明日はちゃんと見送れると良いね」
「そうだな。ちゃんと送り出してやらないと」

マサトとタケシが言った。出来る事なら、もっと一緒にいたかった。しかし、受け止めなければ、ミズカもそして自分達もすっきりしない。

サトシは、そんなミズカをボーッと眺めていた。

先程、シゲルとミズカが買い物をしている間、明日別れのときに渡そうと皆で手紙を書くことにした。サトシ自身、文字に書き起こすことはとても苦手で、女子たちに言われて頷いたものの、何を書けばいいかわからなかった。

それはミズカが自分をどう思っているかわからなかったのも大きい。今までサトシはミズカが辛い話をしていても、だったらこの世界では楽しんでほしいと思っていた。少しでも前向きになって帰ってくれればいいと思っていた。

だが、2年前のことを思い出して、自分がミズカを傷つけていたことがわかった。あのとき、なぜ自分は嫌な気持ちを抱いてしまったのだろう。あのときにノリタカが悪いと割り切って、ミズカはミズカだと受け入れられていたら……。

そう思いながら書いた手紙はなんだか酷い文章だった。きっと何を書いても酷い文章だが、これは酷い。自分の思ってことを書いたが、ミズカに伝わるのだろうか。カスミに覗かれたときには、「いいじゃない」と言われたが、何が良いのかわからなかった。

だから、サトシは本当はあと少し時間が欲しかった。自分の中でちゃんと整理をしたかった。

「みんな起きてたの?」

部屋のドアから声がして振り向いた。そこにはさっきまでスイクンと話していたミズカがいた。

「スイクンと話してたんじゃなかったのか?」
「うん、一瞬だけ。ほんの挨拶だけで、スイクン行っちゃったから……」

サトシが聞くと、ミズカは嬉しそうに笑いながら言った。

「もうさ、皆起きてるならずっと話してようよ」

マサトが口を開いた。たしかに、このまま寝れそうにない。それだったら、話していた方が楽しいだろうということだった。みんなが賛成する。サトシも頷く。

ミズカ達は朝が来るまで、ずっと今までの旅の話で盛り上がった。

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