最終章 別れのとき

『エーフィも知らぬことだ』
「そうなんだ……」

教えてくれないということは、相当な理由のように感じる。スイクンはこれ以上、教えてくれなさそうだ。

スイクンは、不意にリボンのような尻尾でミズカの頬を撫でた。ミズカは俯いていた顔をあげる。理由が知れなくてモヤモヤしていた。

『……覚えておけ。決して、お前の存在が消えるわけではない』

スイクンは話を変えた。もしかしたら、関わった話かもわからないが、今のミズカに知る術はない。まっすぐ赤い瞳を見つめる。

『存在ではない。記憶が消える。記憶が消えても、お前はこの世界の血も混じっている。完全にこちらとの関係を断ち切るわけではない。向こうへ行っても、この世界に来るきっかけはいくらでもある』
「いくらでも……」
『また会う日までの、ほんの一瞬だ』

スイクンが小さく笑う。ミズカも微笑み、頷いた。

「そうだね。またいつか」
『またいつか……な』

スイクンはミズカから尻尾を離すと、くるりと後ろを向き、去っていった。

「またいつか……」

そんな日があれば嬉しい。スイクンの去っていく背中を見つめながら、繰り返し呟いた。

「明日は、泣かないで皆と別れたいな。ね、みんな?」

ミズカの言葉に、ポケモン達は頷く。夜空を見上げると、珍しく冷たい北風が頭を撫でた。
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