最終章 別れのとき

「独占って……」
「大体誰かしらいたからね。僕がいるとき」
「オーキド研究所は……」
「ポケモン達がいたじゃないか。告白したときもエーフィと一緒に来てた」
「それは身が持たなそうだったから……。シゲルにどう思われてるのかもわからなかったし」
「それはお互い様だね」

シゲルの言葉にミズカは苦笑した。
 
「だが、僕も少しは君の気持ちに気づいてよかったかもしれないと思ってる」
「?」
「向こうの世界で最後にカスミがわざわざ君の恋について言及したのは、僕がいたからだと気づけなかった」
「あ、あれは……」
「ポケモンライドの大会後も追いかけてきてくれたと聞いた。嫌われてはいないと思ってたが、今思うとモロバレの行動をされているなぁと」

シゲルがミズカの顔を覗く。ミズカの顔はますます紅葉して、しまいには目を逸らした。シゲルは前を向き直ると、口角を上げる。

「嬉しかった」
「え?」
「初対面だと思っている君に夕飯を誘われたのも、ポケモンライド大会後に追いかけてきてくれたのも、ジョウトリーグで偶然会えたことも、僕を想ってくれていたことも」
「……」

ミズカは大きく目を見開いた。瞳が揺れる。夕日に照らされたミズカの好きな人は少し照れくさそうに、しかし真剣にミズカを見つめていた。

「……あたしも」

照れくさいのはミズカもだ。でも、言わないと伝わらないことがあることをミズカはもう知っている。

「オーキド博士がね。さっき、あたしとサトシの出会いは奇跡だって話してたの」
「奇跡?」
「うん。まったく会わせるつもりなかったんだって」
「……」
「てことは、シゲルとも会わせるつもりなかったんだろうなって。でも、出会えなきゃ、この気持ちは知らないままだった」

にこりと笑うミズカに、シゲルは思わず手を伸ばした。肩を引き寄せて抱き締める。一瞬の出来事にミズカは硬直した。

「すまない。……少しだけ」
「……うん」

ミズカは行かないでくれと言われているように感じる。抱きしめられて、恥ずかしいはずなのに、それよりも切ない気持ちが襲ってくる。この切なさはきっとシゲルから伝染している。

シゲルに何と声を掛けていいかわからない。シゲルはどんな顔をしているのか。

夕日が少しずつ傾いていくのが見える。こうやって、歩みを止めていても時間は残酷にも過ぎていく。時間の進みを感じると、心臓がドクドクと叩いてくる。痛い。このまま時間が止まってもいいかもしれない。ミズカは内心そう思っていた。

少し経って、シゲルの腕が自分から離れていく。名残惜しい。きっともうない。そう思うとミズカは少し込み上げてくるものがあった。

「夕飯は何を作るんだい?」

急に話題が変わり、ミズカは拍子抜けした。この先の話は、明日の別れに繋がる。だからシゲルはわざと逸したのだとミズカは察する。
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