3章 チコリータ、ゲットだぜ!
ミズカが気がついたのは夕方頃だった。目を開けると、ハッとしたように起き上がった。
「気づいたのね」
カスミが口角を上げる。ミズカはキョロキョロと辺りを見回すと、不安げにカスミを見た。
「……チコリータは?」
「大丈夫。検査してもらって異常もなかったわ。回復が早くて、いつでも外に出て良いって」
「チコリータのトレーナーは……」
「ピカチュウの攻撃で逃げてった。もう来ない」
「イーブイも倒れちゃったんだけど……」
「ジョーイさんに手当てしてもらっておいたわよ」
カスミとサトシの返事に、やっとミズカは安堵した。厄介事はもうなさそうだ。
「ありがとう! イーブイとチコリータは?」
「部屋で遊んでるぜ! ピカチュウも一緒にな!」
「良かった。あれ……? タケシは……?」
ようやくミズカはタケシがいないことに気づく。
「いつもの事よ……」
カスミはため息混じりに言うと、肩を竦めた。タケシがジョーイにナンパしに行っていることがわかり、ミズカは苦笑した。
翌日、早朝。ミズカはイーブイと一緒にチコリータを野生に返すことにした。
「もう、あんなトレーナーに捕まっちゃだめだよ」
「チコ?」
チコリータはわかっていないようで首を傾げている。ミズカは小さく口角を上げると、しゃがんだ。
「チコリータはもう自由にして良いんだよ? この森は大人しいポケモンが多いから、チコリータにも合うってジョーイさんが言ってた」
「チコ……」
不安そうにするチコリータに、ミズカは笑いかける。
「大丈夫だよ。もうチコリータの元トレーナーも来ないし、人間がいる空間にいなくて良い。この森が嫌なら、チコリータの足でどこでも行ける」
「……」
「チコリータ、元気でね。いつかまた会えたらーー」
仲間になってほしいとは言えなかった。ミズカは言葉を飲み込むと、チコリータの頭を撫でる。
「いつかまた会えたら、イーブイと遊んでね」
ゆっくり立ち上がる。これがチコリータと自分の在り方だ。
「チッーー」
「バイバイ」
表情が歪むのが自分でもわかった。精いっぱい堪えて、ミズカはポケモンセンターへ歩いていく。イーブイもチコリータを気にしながら、ミズカの背を追いかけた。
残されたチコリータは呆然とミズカの背中を見つめる。
一昨日も昨日も、彼女は自分を助けてくれた。それはチコリータには今までなかったことだ。彼の最初のパートナーになってから、ずっとなかった。
人間は皆、怖いものだと思っていた。しかし、そうではなかった。彼女も彼女の周りにいる人間も、とても温かい。昨日、ピカチュウとイーブイと遊んだ。そのときに、ピカチュウが自分のトレーナーや旅について話してくれた。
ピカチュウの話す旅はチコリータの知らない楽しい旅のようだった。そういえば、自分もあの男に選ばれる前はとても旅を楽しみにしていた。
一緒に切磋琢磨して、楽しい時に笑い合えるようなパートナーを望んでいた。
この森に住むことをチコリータは想像できない。
むしろ、このままミズカと旅をすると思っていた。が、ここに来てようやく自分がミズカのポケモンでなかったことに気づいた。ドクドクと心臓が鳴る。
『チコリータの足でどこでも行ける』
どこでも行けるとミズカは言った。自由にしていいとミズカは言った。チコリータは最後にミズカが泣きそうになって自分と別れたのを見逃さなかった。
チコリータは静かに来た道を歩んだ。
「気づいたのね」
カスミが口角を上げる。ミズカはキョロキョロと辺りを見回すと、不安げにカスミを見た。
「……チコリータは?」
「大丈夫。検査してもらって異常もなかったわ。回復が早くて、いつでも外に出て良いって」
「チコリータのトレーナーは……」
「ピカチュウの攻撃で逃げてった。もう来ない」
「イーブイも倒れちゃったんだけど……」
「ジョーイさんに手当てしてもらっておいたわよ」
カスミとサトシの返事に、やっとミズカは安堵した。厄介事はもうなさそうだ。
「ありがとう! イーブイとチコリータは?」
「部屋で遊んでるぜ! ピカチュウも一緒にな!」
「良かった。あれ……? タケシは……?」
ようやくミズカはタケシがいないことに気づく。
「いつもの事よ……」
カスミはため息混じりに言うと、肩を竦めた。タケシがジョーイにナンパしに行っていることがわかり、ミズカは苦笑した。
翌日、早朝。ミズカはイーブイと一緒にチコリータを野生に返すことにした。
「もう、あんなトレーナーに捕まっちゃだめだよ」
「チコ?」
チコリータはわかっていないようで首を傾げている。ミズカは小さく口角を上げると、しゃがんだ。
「チコリータはもう自由にして良いんだよ? この森は大人しいポケモンが多いから、チコリータにも合うってジョーイさんが言ってた」
「チコ……」
不安そうにするチコリータに、ミズカは笑いかける。
「大丈夫だよ。もうチコリータの元トレーナーも来ないし、人間がいる空間にいなくて良い。この森が嫌なら、チコリータの足でどこでも行ける」
「……」
「チコリータ、元気でね。いつかまた会えたらーー」
仲間になってほしいとは言えなかった。ミズカは言葉を飲み込むと、チコリータの頭を撫でる。
「いつかまた会えたら、イーブイと遊んでね」
ゆっくり立ち上がる。これがチコリータと自分の在り方だ。
「チッーー」
「バイバイ」
表情が歪むのが自分でもわかった。精いっぱい堪えて、ミズカはポケモンセンターへ歩いていく。イーブイもチコリータを気にしながら、ミズカの背を追いかけた。
残されたチコリータは呆然とミズカの背中を見つめる。
一昨日も昨日も、彼女は自分を助けてくれた。それはチコリータには今までなかったことだ。彼の最初のパートナーになってから、ずっとなかった。
人間は皆、怖いものだと思っていた。しかし、そうではなかった。彼女も彼女の周りにいる人間も、とても温かい。昨日、ピカチュウとイーブイと遊んだ。そのときに、ピカチュウが自分のトレーナーや旅について話してくれた。
ピカチュウの話す旅はチコリータの知らない楽しい旅のようだった。そういえば、自分もあの男に選ばれる前はとても旅を楽しみにしていた。
一緒に切磋琢磨して、楽しい時に笑い合えるようなパートナーを望んでいた。
この森に住むことをチコリータは想像できない。
むしろ、このままミズカと旅をすると思っていた。が、ここに来てようやく自分がミズカのポケモンでなかったことに気づいた。ドクドクと心臓が鳴る。
『チコリータの足でどこでも行ける』
どこでも行けるとミズカは言った。自由にしていいとミズカは言った。チコリータは最後にミズカが泣きそうになって自分と別れたのを見逃さなかった。
チコリータは静かに来た道を歩んだ。