最終章 別れのとき

「ピカピー!!」

ピカチュウがサトシを見つけると真っ直ぐ走っていく。

「ピカチュウ! もう大丈夫そうだな」

ピカチュウを受け止めながら、サトシはミズカとミズカに抱きついているピチューを見た。ミズカはにこりとして頷いた。

「みんな呼んで、お昼にしようよ」
「そうだな」

サトシは頷く。それぞれ分かれて、みんなを呼ぶ。

その後は、全員でいつものように他愛のない話で盛り上がった。気分は乗らないが、この方が気が紛れる。一言も明日の事など話す者はいなかった。

明日もいつも通り、バカ騒ぎするのではないか。それくらい、日常を過ごした。

たとえば、マサトとケンジとオーキド邸のポケモンをウォッチングしたり、苦手なコンテスト技をハルカとヒカリに教わったり、サトシと一緒にシゲルからシンオウでの生息分布や生態研究について聞いたり、サトシとカスミの喧嘩をタケシと止めたり、ポケモン達と追いかけっこしたりボールで遊んだりした。

変わらない一日。だが、ミズカが望んでいた一日でもあった。

「はあ!? 買い物を二人で!?」

夕方になると、夕飯をどうするかの話になった。カスミとハルカがシゲルと行ってくるように促してきた。ミズカは首を横に振る。

「無理! サトシ、一緒に――」

言いかけると、面白がってサーナイトが、サイコキネシスでミズカの口を塞いだ。

「え、なに?」
「あんたはいい!! 気にしないで!!」

カスミが声を上げると、サトシは「はあ?」と眉間にシワを寄せた。

「シゲル。ミズカが買い物の手伝いが欲しいらしいの。私達買い物するところわからないから、一緒に行ってあげて?」
「ああ、そういうことか」

シゲルは察したらしく、苦笑する。ミズカの顔は真っ赤だ。ヒカリがミズカの背中を押す。

シゲルは優しく微笑んだ。

「僕とじゃ嫌かい?」

ミズカは顔を真っ赤にしながら、黙ったまま首を横に振る。そのまま、女子たちに玄関まで引っ張られ、オーキド研究所から追い出された。

「行こうか。案内する」

シゲルに言われて頷く。今回はエーフィもいない。完全に二人きり。ミズカは緊張する。心臓の音がうるさくて、何を話していいかわからない。

シゲルはそんなミズカを見て吹き出した。

「そんな緊張するかい?」
「す、するよ!? え、逆にしないの!?」
「僕は君を独占できて嬉しいが?」

わざと追い討ちを掛けるシゲルにミズカは両手で頬を抑える。恥ずかしい。顔が熱い。
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