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33章 苦渋の決断

帽子を深く被る。泣きそうな顔は見られたくない。一生懸命、平静を装った。

「……良かったじゃないか」

サトシは、ミズカの頭の上にポンと手を乗っけた。

「そりゃ、俺達は兄妹だけど住むべき場所が違うだろ? もうこの世界に来る必要がなくなったんだから……、良かったじゃないか」

声までは隠せなかった。サトシの声は震えていた。折角、異母兄妹だと知って、これからってときに、ミズカとの旅ごと記憶を消されるのはあんまりだ。本当は引き止めたい。だが、自分がそれを発したらミズカが困る。

もしかしたら、向こうの世界へ戻るのをやめると言うかもしれない。それは家族を捨てることになる。それは、自分がノリタカにされたことだ。そんなミズカは見たくない。

サトシがそれ以上、言葉を紡げないのを察して、シゲルが口を開く。

「別れは寂しいけれど、これから君は普通に過ごせる。もう安心だね」

シゲルも珍しく声が震えている。

「それじゃあ、みんなにも伝えてくるね」

ミズカは立ち上がる。二人の顔は見られなかったが、どんな顔をしているのかは想像がついた。ミズカは俯きながら、歩いていく。

途中で木の陰を見つけると、ミズカはそこにしゃがんだ。

「……明日って、一日もないんだよ」

明日の今頃は、もうここに自分の姿はない。

「どうして? どうしてよ……!?」

溢れる涙と共に、この世界での出逢いや楽しかった思い出が流れ込んできた。

サトシ、カスミ、タケシ、ピカチュウと最初に助けてもらった。イーブイがキラキラとした瞳で自分のパートナーになってくれた。つい最近の出来事のように鮮明に覚えている。

その後、ゲットしたチコリータやピチュー。自分の名前を聞いて思わず顔をしかめたシゲル。ホンエン地方で仲間になった、ハルカとマサト。ゲットしたプラスルとマイナン。そしてキルリアにチルタリス、バシャーモ。シンオウ地方では、ヒカリが仲間になり、レントラーをゲットした。

次々と今までに出会った者の顔が浮かんでは消えを繰り返される。彼らと別れなければならない。そして、記憶も消される。

本当は嫌だ。帰りたくない。別れたくない。記憶だって消したくない。ポケモン世界はいつだってミズカの支えだった。誰か一人でも欠けていたら、きっと今のミズカはいない。もとの世界でだって、前を向くことなんて出来なかった。
 
ミズカは、気持ちに押し潰されそうになった。落ち着くまで、しばらくはそこにしゃがんで涙を流した。
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