3章 チコリータ、ゲットだぜ!

「みだれづき」

オニドリルはミズカの背中にみだれづきをしてくる。翼で叩かれたり、ドリルくちばしでベストを破られたり、電光石火で背中を撃たれたりした。

何度も何度もミズカにチコリータを放せと攻撃してくる。それでも、ミズカは絶対にチコリータを離さなかった。

チコリータからはミズカの表情がちゃんとは見えなかった。髪の毛がボサボサと降りてきている。ただ、ミズカの身体が熱くなっており、汗も酷いことには気付いた。

「チココ……」

放してと言う声も、ミズカには届かない。ミズカの肩が上下に大きく動いている。意識が弱い。

「もうこの女にとどめを刺せ。ドリルライナーだ」

止めの一撃をオニドリルが繰り出そうとする。天からオニドリルが降ってくるのをチコリータは捉えた。そして耳元で「攻撃の後、逃げて」というミズカの声が微かに聞こえる。

チコリータは抜けてミズカを助けようとするが、オニドリルがすぐ目前で間に合いそうにない。ミズカもぎゅっと目を瞑った。

「ーーピカチュウ、十万ボルト!」
「ピーカヂューウ!!」

遠くからサトシとピカチュウの声が聞こえた。と、思ったら、ミズカの頭上に電撃が走る。

オニドリルにピカチュウの10万ボルトが炸裂した。ミズカは重い体をゆっくり起こす。オニドリルが目の前で倒れていた。

「ミズカ、大丈夫!?」

カスミはミズカの所に駆け寄る。どうやら帰りが遅くて様子を見に来てくれたようだった。

「なんとかね……」

ミズカは力なく返事をすると、気が抜けて、意識を手放した。チコリータが心配して、彼女の顔を覗く。

「チッコ……」
「大丈夫。気を失ってるだけだ」

ミズカを背負いながら、タケシはチコリータに言う。

ーーミズカって、無鉄砲なのね。

この無鉄砲はどこか既視感がある。ミズカからサトシに視線を移した。ピカチュウがビリビリと頬から電気を流している。

「チコリータのトレーナーだったのはお前か!」
「も、もうチコリータを返せなんて言わねぇよ」
「ピィカ?」

サトシとピカチュウが男に向かっている。男はオニドリルをモンスターボールに戻した。

「じゃあな」

森の中へ進んでいった彼をサトシは追いかけなかった。ふうっと息を吐いて、腰に手を当てる。

「ミズカに攻撃したのに自分は攻撃されたくないのかよ」
「ピカ……」

攻撃してやろうかとも思ったが、それよりもミズカだとサトシは割と冷静だった。あちこちに傷ができていて、腕から出る血や破けたベストが痛々しい。この調子だとイーブイもジョーイに預ける必要がありそうだ。

「チコリータには意地でも攻撃が当たらないようにしたのね」
「どこかで見た無茶だなぁ」

ぼやくタケシにカスミは苦笑した。タケシも同じことを思っていたようだ。サトシ達はポケモンセンターへ戻った。

ジョーイはミズカの様を見て、目を見開いた。人間にも病室があるらしく、案内された。そこにミズカを寝かせる。カスミはミズカのベストを脱がせるとタケシに渡した。縫うらしい。

「チコリータはこれから検査して、イーブイも預かります。それから……」
「ミズカの手当ては自分達がします。人間用の救急セットをもらっても宜しいですか?」
「もちろんよ。ラッキーに持ってこさせるわね」

ジョーイはチコリータを連れ、イーブイのモンスターボールを持って行った。これでやっと落ち着きそうだ。サトシ達は一息ついた。
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