33章 苦渋の決断
――十年前。
サトシが生まれる少し前のこと。この時は何もかもゆっくり順調に事が進んでいた。もうすぐ生まれる赤ちゃんの誕生に向け、一児の父親になる青年ノリタカは、ここ一年半くらいずっと、オーキドの助手をしている。
トレーナーから研究者へ転身したのは、旅の途中に来たマサラタウンにハナコがいたから。ハナコと付き合い始めたノリタカは、身を固めるためにマサラタウンに腰を下ろすことにした。
「今日は早く帰ったらどうじゃ? 妊婦さんだけに任すわけにはいかんじゃろう」
「すみません。博士もお孫さんが生まれるので大変だと思いますが、後は、宜しくお願いします」
ノリタカはオーキドの気遣いを有難く頂戴し、研究所を後にした。彼は、キチッとした青年だった。若者にしては気が利き、オーキドも研究をするには、とても楽だった。
生まれる子供は男の子だとわかっていたので、すでに決めているらしい。その名はサトシである。
「ワシの孫も、もしかしたらノリタカと同い年になるかもしれんな」
そんな翌日。
「ついに完成したんですね」
この時は、ポケモンの研究だけでなく他の研究もしていた。それが異世界……、つまり、今ミズカが住んでいる世界について調べることだった。この研究はあるポケモンへと繋がるものでもある。
「努力が実ったのう」
元々、異世界があることはわかっていた。しかし、異世界への行き方は知らなかった。この一年間、色々なことを調べ、色々なことを試して、ことごとく失敗していた二人にとって、違う世界へ行ける道が出来ることは、とても喜ばしく、誇らしいことだった。
「それ、俺に貸してください! 俺が行きます」
それとは、手鏡のことである。時空間を往来できる装置。
ノリタカが異世界に行きたい理由は一つだった。スイクン伝説について調べたかったのだ。もっと言うと、北風使いについて調べたかった。
北風使いが飛ばされた異世界には、その生まれ変わりがいるはずだ。会えれば必ずスイクンに関われる。そしたら、ポケモンの研究はもっと奥深く、素晴らしいものになる。
「ダメじゃ。お前さん、奥さんはどうするんじゃ。これは、もうちょっと先に使った方がいいじゃろう」
「そ、そうですね」
ノリタカは手鏡が出来上がったテンションで、すっかり行く気になっていた。しかし、今は家族がある。ノリタカは頷いて、そのときは異世界へ行くのをやめた。
しかし、その夜、急にノリタカの方向性が変わった。
「やっぱり、我慢できません。俺、行ってきます。ハナコと子供は、宜しくお願いします」
ノリタカはオーキドから手鏡を奪い、異世界へと行ってしまった。ほんの一瞬の出来事。
オーキドもその数時間の間に何が起こったのかわからなかった。なぜ、ノリタカが待てなかったのか。それはいまだにオーキドもわからない――
サトシが生まれる少し前のこと。この時は何もかもゆっくり順調に事が進んでいた。もうすぐ生まれる赤ちゃんの誕生に向け、一児の父親になる青年ノリタカは、ここ一年半くらいずっと、オーキドの助手をしている。
トレーナーから研究者へ転身したのは、旅の途中に来たマサラタウンにハナコがいたから。ハナコと付き合い始めたノリタカは、身を固めるためにマサラタウンに腰を下ろすことにした。
「今日は早く帰ったらどうじゃ? 妊婦さんだけに任すわけにはいかんじゃろう」
「すみません。博士もお孫さんが生まれるので大変だと思いますが、後は、宜しくお願いします」
ノリタカはオーキドの気遣いを有難く頂戴し、研究所を後にした。彼は、キチッとした青年だった。若者にしては気が利き、オーキドも研究をするには、とても楽だった。
生まれる子供は男の子だとわかっていたので、すでに決めているらしい。その名はサトシである。
「ワシの孫も、もしかしたらノリタカと同い年になるかもしれんな」
そんな翌日。
「ついに完成したんですね」
この時は、ポケモンの研究だけでなく他の研究もしていた。それが異世界……、つまり、今ミズカが住んでいる世界について調べることだった。この研究はあるポケモンへと繋がるものでもある。
「努力が実ったのう」
元々、異世界があることはわかっていた。しかし、異世界への行き方は知らなかった。この一年間、色々なことを調べ、色々なことを試して、ことごとく失敗していた二人にとって、違う世界へ行ける道が出来ることは、とても喜ばしく、誇らしいことだった。
「それ、俺に貸してください! 俺が行きます」
それとは、手鏡のことである。時空間を往来できる装置。
ノリタカが異世界に行きたい理由は一つだった。スイクン伝説について調べたかったのだ。もっと言うと、北風使いについて調べたかった。
北風使いが飛ばされた異世界には、その生まれ変わりがいるはずだ。会えれば必ずスイクンに関われる。そしたら、ポケモンの研究はもっと奥深く、素晴らしいものになる。
「ダメじゃ。お前さん、奥さんはどうするんじゃ。これは、もうちょっと先に使った方がいいじゃろう」
「そ、そうですね」
ノリタカは手鏡が出来上がったテンションで、すっかり行く気になっていた。しかし、今は家族がある。ノリタカは頷いて、そのときは異世界へ行くのをやめた。
しかし、その夜、急にノリタカの方向性が変わった。
「やっぱり、我慢できません。俺、行ってきます。ハナコと子供は、宜しくお願いします」
ノリタカはオーキドから手鏡を奪い、異世界へと行ってしまった。ほんの一瞬の出来事。
オーキドもその数時間の間に何が起こったのかわからなかった。なぜ、ノリタカが待てなかったのか。それはいまだにオーキドもわからない――
