32章 最後の戦い

髪の長い自分は、白い階段を指した。ミズカは白い階段を眺める。階段を登った先は死だ。それは本当に自分が待ち望んでいるものなのだろうか。

待ち望んでいるものはなんなのか。友達? 家族? ポケモン? いずれもこの階段の先にないはずだ。

涙を流しながらも首を横に振る。

「楽になんてならない。多分、後悔する」

階段を登ったら、ずっと後悔する。ここを登れば、間違いなく自分は死ぬ。

「死ぬのが怖いの?」

髪の長いミズカは、もう幼稚園児のミズカに戻っていた。

「死ぬのが怖いんじゃない。……何かを忘れているの」

心に何か詰まっている。泣いても泣いてもどうにもならない。絶望に立たされる前の自分にはあって、今の自分にらないものがある。

「なんだろう……」

仲間は信じている。もとの世界でだって、家族や中学で出会った友達に先生……、皆を信じている。信じているはずだ。ここで聞こえている言葉は全部嘘。わかっているのに、全部ネガティブに考えてしまう理由がミズカにはわからなかった。

「あなたにあって、あたしにないものって何かな?」

幼稚園児の自分に聞いてみる。

「わからない。だって、わからないまま気持ちの何処かで切り捨てしまってるもん」

顔を歪めている。きっと目の前の彼女はわかっているのだ。

「早く登ってよ……」

その割には泣きそうな表情で、どちらかというと行ってほしくないみたいだった。やはり、悪夢でも彼女は本当にミズカという人物らしい。

「なんで信じているのに、面と向かって仲間はそんなことを言わないって言えないの……?」

きっと、その詰まりのせいだろう。こんなにも仲間を思っているのに、信じているのに……。
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