32章 最後の戦い

「振り回されっぱなしで、疲れたな」
「ホントよねー。親友なんてやってられないわよ」
「嫌だ。独りになるのは……イヤ……」

耳を塞いでいるのに、容赦なく聞こえてくる。ずっと一緒だったタケシに、親友のカスミの声。

確かに、タケシをずっと振り回している。カスミも呆れてしまっているのかもしれない。

「サトシの父親を奪うとはね」
「これは悪夢……。嘘……なんだから……」

好きな人……、シゲルの声だ。3歳の時の彼を思い出す。冷たい視線、友達の父親を奪った自分を見て、あのときどう思っただろうか。

胸が切ない。ミズカは追い込まれていた。悪い方向へ、悪い方向へと考えてしまう。

「ミズカなんて生まれて来なければ良かったんだ」

最後にサトシの声がして顔を上げた。冷たい表情。胸が張り裂けそうだ。足音が、こっちに近づいてくる。

「お前が父さんを奪ったんだろ」
「違う……」
「お前が生まれたせいで、こんな事になったんだろ」
「違う……」

否定する度に、鼓動が高鳴った。それは否定しているミズカが本当はサトシの言葉を肯定しているからだ。

サトシはずっとそんなことを言わなかった。大事だと言ってくれていた。でも……、彼が2年前の記憶を取り戻してから、そんな会話はしていない。

もしかしたら、記憶が蘇ってから思っているかもしれない。やっぱり、自分が妹は嫌だと。受け入れられない、と。

サトシが目の前まで来た。正面にいる。冷たい顔がチラッと見える。

「……死んでくれ。もう嫌なんだ。……何もかも」

死んでくれ。サトシにまで言われては、生きる意味がない。ミズカはサトシにそれだけのことをしたと思っている。

「結局、仲間なんか信頼してないじゃん」

もう一人の声がする。絶望に立たされる前の髪が長い時の自分がいた。ポケモン世界に来た当時の自分。家族のことはあったが、能天気に前向きだった頃の自分だ。

彼女は怒った表情でミズカに迫った。

「……なんで信頼してないの!? なら、早く死んじゃいなよ! 死んだ方が楽になるじゃん!! どうせ居場所なんかないんだから」

ミズカは立ち上がって思わず一歩下がった。背景が一気に変わる。真っ暗な世界に、白い階段が空へ繋がった。相変わらず、みんなの嫌な言葉は絶えない。

耳が痛い。いっそのこと、耳を切ってしまいたかった。涙が勝手に次から次へと流れてくる。止まってくれない。

「登りなよ。この階段の上には、待ち望んでいるものがある」
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