32章 最後の戦い
「でも、八歳になって夜が好きになった」
ポケモンの世界が存在することを知った。つまらない夜になる予定だったが、それがひっくり返った。全てが明るくなった。最初は帰れないかもしれないというホームシックはあったが、みんなが凄く温かく、夜が大好きになった。
「でも、その温かさが嘘だったら?」
幼稚園児のミズカに質問され、ミズカの表情は曇る。
「本当は、皆、あたしのことはどうでもよくて、それどころか、嫌いだと思われてたら?」
「そんなわけない!」
「そう。独りになるのが怖いんだよね」
その言葉が心に突き刺さってミズカは黙る。
「聞いたの? 自分が信じるのは勝手。でも、人は騙すものでしょ? 裏切るものでしょ?」
もとの世界での移り変わりが激しかった。小学校で仲が良かったサキコ達とはもう疎遠になっている。リキヤとも母親同士は会っているようだが、ミズカはまるで他人のような関係になっている。それは、ミズカの環境に二人がいなくなったからに他ならない。
だから、意外に仲良かったのにどうでもよくなるもんなんだな、と思った。
中学になってからは特に人を信じられなくなった。信じても、イジメられる。自分のやりたいことを我慢した先は結局我慢だけ。酷い仕打ちだって受けた。
他人を思いやる。そんなものは綺麗事なのかもしれないと、ミズカは心の何処かで思っている。
「サトシ達だって、そうかもしれないよ?」
「違う。皆は違う。あたしはポケモン世界に来ないって言ったのに、迎えに来てくれた」
「当たり前じゃない。見殺しにされたなんて思われたくないもの」
他人を思いやることが綺麗事だと何処かで思っているからか、悪夢なのをわかっていても、幼稚園児の自分の言葉が痛い。耳を塞ぐ。思わずしゃがんでしまった。涙がじんわりと滲む。
「これは、悪夢……」
ミズカは自分に言い聞かせる。サトシ達に限ってそんなことはない、と。幼稚園児のミズカは黙った。代わりに、後ろから別の話し声が聞こえてくる。
「全く、マサトまで戦いに巻き込んで……、ありえないかも」
「僕だって本当はお姉ちゃんが心配で追いかけてきたんだ!」
「旅が始まって、すぐに、こんな事があるなんてダイジョバナイ!」
「いや……。やめて……」
声ですぐわかる。今のはマサトにハルカ、ヒカリの声だ。胸が痛い。涙が止まらない。
「どうして? ここは悪夢なんでしょ? 仲間を信じてるんでしょ? だったら向きあって、仲間はそんなことを言わないって、はっきり言えばいいでしょ!」
幼稚園児のミズカの言う通りだ。なんて自分は弱いのだろう。信じているはずなのに、声が聞こえただけで向き合うのが怖い。耳を塞ぐ。
ミズカは心の何処かで思っている。思いやられているのはサトシで、自分は仕方なくなのではないかと。
自分はサトシの父親を奪った。ミズカの心の片隅には、いつもある。仲間たちもあってもおかしくはない。
ポケモンの世界が存在することを知った。つまらない夜になる予定だったが、それがひっくり返った。全てが明るくなった。最初は帰れないかもしれないというホームシックはあったが、みんなが凄く温かく、夜が大好きになった。
「でも、その温かさが嘘だったら?」
幼稚園児のミズカに質問され、ミズカの表情は曇る。
「本当は、皆、あたしのことはどうでもよくて、それどころか、嫌いだと思われてたら?」
「そんなわけない!」
「そう。独りになるのが怖いんだよね」
その言葉が心に突き刺さってミズカは黙る。
「聞いたの? 自分が信じるのは勝手。でも、人は騙すものでしょ? 裏切るものでしょ?」
もとの世界での移り変わりが激しかった。小学校で仲が良かったサキコ達とはもう疎遠になっている。リキヤとも母親同士は会っているようだが、ミズカはまるで他人のような関係になっている。それは、ミズカの環境に二人がいなくなったからに他ならない。
だから、意外に仲良かったのにどうでもよくなるもんなんだな、と思った。
中学になってからは特に人を信じられなくなった。信じても、イジメられる。自分のやりたいことを我慢した先は結局我慢だけ。酷い仕打ちだって受けた。
他人を思いやる。そんなものは綺麗事なのかもしれないと、ミズカは心の何処かで思っている。
「サトシ達だって、そうかもしれないよ?」
「違う。皆は違う。あたしはポケモン世界に来ないって言ったのに、迎えに来てくれた」
「当たり前じゃない。見殺しにされたなんて思われたくないもの」
他人を思いやることが綺麗事だと何処かで思っているからか、悪夢なのをわかっていても、幼稚園児の自分の言葉が痛い。耳を塞ぐ。思わずしゃがんでしまった。涙がじんわりと滲む。
「これは、悪夢……」
ミズカは自分に言い聞かせる。サトシ達に限ってそんなことはない、と。幼稚園児のミズカは黙った。代わりに、後ろから別の話し声が聞こえてくる。
「全く、マサトまで戦いに巻き込んで……、ありえないかも」
「僕だって本当はお姉ちゃんが心配で追いかけてきたんだ!」
「旅が始まって、すぐに、こんな事があるなんてダイジョバナイ!」
「いや……。やめて……」
声ですぐわかる。今のはマサトにハルカ、ヒカリの声だ。胸が痛い。涙が止まらない。
「どうして? ここは悪夢なんでしょ? 仲間を信じてるんでしょ? だったら向きあって、仲間はそんなことを言わないって、はっきり言えばいいでしょ!」
幼稚園児のミズカの言う通りだ。なんて自分は弱いのだろう。信じているはずなのに、声が聞こえただけで向き合うのが怖い。耳を塞ぐ。
ミズカは心の何処かで思っている。思いやられているのはサトシで、自分は仕方なくなのではないかと。
自分はサトシの父親を奪った。ミズカの心の片隅には、いつもある。仲間たちもあってもおかしくはない。