3章 チコリータ、ゲットだぜ!

「?」
「ブイブイ!」

遊ぼうと誘えば、チコリータは嬉しそうに口角を上げた。そして、ミズカの足を肉球で押し当てる。

「ん?」

首を傾げた瞬間、イーブイはいたずらっ子の笑みを浮かべて、チコリータとポケモンセンターの方を走っていく。

「え? えぇ!?」

追いかけっこをしたいらしい。ミズカははじめこそ戸惑ったが、チコリータの笑顔を見て、口角を上げる。

「待ってー!!」

ミズカは鬼になって、2匹を追いかけた。楽しい時間はあっという間に過ぎた。木陰で涼んで、ゆっくりしているところで時計を見る。12時まで後10分だ。

「ここから普通に歩いて行けば、間に合うね。イーブイ! チコリータ! 戻ろっか」

2匹に声を掛け、来た道を戻っていく。ミズカの足取りはポケモンセンターに近づくにつれ、重たくなった。もうすぐでお別れ。この後、検査で何もなければ、ジョーイは野生に返して大丈夫だという。この辺のポケモンは大人しいからと話してくれた。

別れが悲しい。とはいえ、決めたことを覆すつもりはない。どう考えたって大事なのはチコリータの気持ちだ。チコリータが進みたい方向に進むべきだ。

ぼーっと、前を歩くチコリータを眺めていると、チコリータに影が降りた。顔を上げると、チコリータを捨てた男だった。

「昨日はどうも!」
「何? あんたはもう関係ないでしょ!」

ミズカは男を睨み付ける。今更、何の用なのだとミズカは腹立たしく思う。

「こいつを返して欲しくてな」
「……なんで」

ミズカは目を見開いた。チコリータが、ミズカの影に隠れた。すごく震えている。

「かなり仲良くなったみたいだな」
「だから、何? 言っとくけど、この子を渡す気はないよ」

チコリータは野生に返すのだ。この男に返すつもりはサラサラない。そもそも既に逃がしているポケモンだ。それを返せというのは、またチコリータをサンドバッグにすると言っているようなもんだった。

「なら力づくで、返してもらう」

にやりとしながら、男はモンスターボールを構える。ミズカとイーブイは顔を見合わせて頷いた。今回はイーブイがいる。

「イーブイ、よろしく!」
「ブイ!」
「行けー! オニドリル!!」
「ドリ!!」

モンスターボールからオニドリルが出てきて、ミズカは驚愕した。1.2メートルもある身体はミズカの身長とあまり変わらない。ミズカは一歩退いた。
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