32章 最後の戦い

「さ……サトシが……、いないの……」

そう言われ動揺した。ごくりと息を飲む。

「し、食堂には?」
「行ったわよ……。心当たりのある場所は全部……。ここが最後に来た部屋……」

震えた声で言ったカスミは、今にも泣き出しそうだった。エーフィ達は、不安な表情でこちらを見上げている。ピカチュウとサトシが一緒にいない事はあまりない。大抵、離れてもピカチュウが他のポケモン達と遊んでいる時くらいだ。

昼食前に一緒にいない、ということは、彼に何かあったのだろう。ピカチュウがポケモン達と遊んでいる間に。完全に油断していた。サトシには何もしないと高を括っていた。

「お父さん……」

間違いなくノリタカだ。ノリタカがどこにいるかわからないのだから、サトシから会いには行けない。ミズカは拳を握る。呼ばれている。窓の外を見つめた。

「カスミは、皆に伝えて」

ミズカは窓から外に出ようとするが、カスミに腕を掴まれた。顔を歪めたカスミがいる。

「この間……、一人で行かないって言ったじゃない」
「だけど、サトシが……」

約束はしたが、今は状況が違う。もしノリタカがサトシに何かしていたら……。居ても立っても居られない。カスミは動揺しながらも冷静な様子で腕を離してくれない。

「皆で行った方が良いかも!」

後ろから声がした。ハルカの声だ。見ると、他にシゲル、ヒカリ、タケシ、マサトと皆いた。

「え……、どうして?」

ミズカとカスミは驚いた表情で彼らを見る。

「カスミがピカチュウを連れて、焦った様子で誰かを探してるように見えたから、まさかと思って皆を呼んで来た」

シゲルが説明する。勘の良さに感心する。

「何をボーッとしている。サトシを助けるんだろう?」

彼に言われ、ハッとした。ミズカは、頷く。

「行こう。お父さんのところに」

窓から外へ出た。そして、走って行く。後から、皆もついて来た。きっと、この戦いが最後になることを信じて。彼らはまだ、戦いが終わったらミズカとの別れだと知らないのだから。

「チルタリス、サトシとお父さんを探して!」
「チル!」

ミズカはモンスターボールからチルタリスを出した。ミズカはピチューを肩に乗せて準備する。チルタリスは、サトシとノリタカを探しに飛んで行った。
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