32章 最後の戦い

「ミズカ……、部屋の外まで聞こえてるわ」

苦笑しながら、ヒカリが入って来た。その後ろに、ハルカとマサト、エーフィとピチューもいる。

「ミズカって、声大きいからね……」

マサトは呆れた表情でミズカを見た。

「ところで、その紙袋は?」

ふとハルカが持っている紙袋が目に入った。ハルカはニコッと笑い、ミズカに渡した。渡されて首を傾げる。

「皆からよ」

そう言われ、目をパチクリさせた、エーフィとピチューを見ると、何やら楽しそうに二匹は頷いた。中を見ろと言っている。ミズカは、中身を開ける。

「あ……服……」

見て驚いた。シンオウ地方の旅から着ていた服が入っていたのだ。

「もう捨てられたと思ってた……」

服は刺されて血だらけだった。しかも破れていたはずだ。それが、綺麗に染み抜きをされ、破れた痕も近くで見ないとわからないほどになっていた。

「実は、二週間前くらいに皆で染み抜きしたの。後はタケシに頼んで、破れた所を縫ってもらったのよ」

ヒカリが説明した。ミズカは服を見ている顔を上げ、「ありがとう」と口角を上げる。

「嬉しい……。……あれ?」
「どうかしたの?」

マサトが顔をしかめながら聞いた。

「なんで今渡したの?」

二週間前にはもう服は直っていたのだ。何故、今頃渡すのかミズカには意味がわからなかった。

「服を渡したら、まずミズカは外へ飛び出すだろう……」

タケシに言われ、ミズカは頭を掻く。自分でも想像がついてしまった。エーフィとピチューは、面白いのかケタケタ笑った。

「それじゃ、着替えたら食堂に来てね。もう昼食かも!」

ハルカの言葉に頷くと、四人は部屋を後にした。ミズカは、すぐに洋服に着替える。思わず笑みが溢れた。あの不器用な連中は、染み抜きをするのに手こずったはずだ。

「汚さないようにしないとね……」

着た服を見ながら呟いた。真新しい服よりも嬉しい服。それを汚したくはなかった。

「フィフィ」
「ピチュ!」

エーフィとピチューを見た。早く食堂に行きたいらしい。

「そうだね。食堂に行こ――」

ミズカの言葉を遮るように、ドアが勢いよく開いた。振り向くと、顔を引きつらせたカスミとピカチュウが立っている。

「ど、どうしたの?」

嫌な予感がする。カスミに近寄った。
8/27ページ
スキ