32章 最後の戦い

「あたし、傷が治ったら会いに行くよ。この中で一番お父さんを知ってるのはあたしのはずだもん」

ミズカは、ニッと笑った。こんなに矛盾だらけで一番納得いってないのは彼女だ。今までは、ただ自分が邪魔なだけだと思っていたが違う気がする。いつでも殺すタイミングはあった。

「でも、それじゃあ……、今度こそ……」

カスミは俯いた。正直、ミズカが刺されたという時はかなり動揺し、ジムの仕事も手につかなかった。なんとか片付けをして、シンオウに向かおうとした矢先にノリタカに連れて来られた。

「平気だって! 崖から落ちようが、ヘリコプターから落ちようが、ナイフで刺されようが、生きてる奴だよ? あたしは、何があっても死なないって」
「ミズカ……」
「逃げても見つかるから。だったら、自分で突っ込んだ方が気持ち的にはすっきりするじゃん」

ミズカは、カスミの頬に触れた。

「……ごめん。でも戦いは終わりにしたい。何もかもが最後になっても」
「何、馬鹿なこと言ってんのよ」

カスミは俯いたままだった。彼女の青い瞳から涙がポタポタ流れている。それがミズカの手に伝った。

カスミには疑問しか浮かばない。何故笑顔で言うのだろうか。何故わざわざ戦いを終わらせに行こうとしているのだろうか。

「……何もかも最後になんて、やめてよ」
「正義は必ず勝つって言うでしょ。勝つよ」
「言わない……わよ。言うのは、あんたと……、サトシぐらいよ……」

カスミはどうしても涙が止まらなかった。また一人で行ってしまうのではないかと、心配でならなかった。

あの日……。ミズカが刺された日。本気で心配だった。一人で行ったと聞いて怒りに震えていた。一晩中、助かるように祈っていた。そんな思いは二度としたくない。

「もう……、一人で行かないでよ?」
「……うん。約束するよ」

カスミに言われ、ミズカは頷いた。もう一人で、父親に会いに行くつもりはない。例え、仲間が危なくなっても、父親が殺そうとしているのは自分だ。その時は自分が助ければ良いと。

シゲルはミズカの考えが読めたのか、心配した表情を浮かべた。ミズカは、それに気づいてニコッと笑いかけた。それが余計、彼を不安にさせた。

「傷は残っているけど、だいぶ良いみたいね」

あれから一週間が経った。ジョーイに傷を見せると、包帯が取れるまでになっていた。

「普通なら、一ヶ月は掛かるんだけど……、凄い回復力ね」

そう言われ、苦笑した。嬉しいような寂しいような。傷の治りが早いと言う事は、仲間との別れも早まったという事になる。

「この傷なら、もう外へ出ても平気よ」
「やったぁ!」

声に出してみたが、よく考えたら自分は今外に出てはまずいという事に気づいた。ミズカは治りかけに一度もとの世界へ帰ると言ったのだが、いつ父親が来るかわからないと仲間たちに止められ、帰れずにいる。

「だいぶ、いいみたいだな」

ジョーイとタケシが入れ違いに入って来た。ミズカは頷く。

「元気満々! 外で走りたいくらい」

ニコッと笑った。最近では、この笑いも凄く気持ちが良い。仲間とは自分の笑顔を見せて別れたいと思ってたから、いつも笑っている。今は辛い表情をするより、笑顔でいる方が、昔に戻れた気がして嬉しかった。

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