32章 最後の戦い

「どうしてそこまで話してくれるの?」
「ミズカの親友だからだよ。初っ端の僕の態度を見ていたから、心配にもなるだろうと思って」

カスミはそれを聞くと、「じゃあ」と続ける。

「ミズカがエーフィ盗まれてオーキド研究所に行ったとき、シゲルが運んだの?」
「……なんだい。その質問は」
「ミズカがエレキブルで運んだんじゃないのって言っていたのよ」

そう言われてシゲルはため息をついた。

「僕が運んだ。オーキド研究所に来てから次に起きるまでの記憶が彼女にないんだ」

カスミは満足そうに口角を上げた。やっぱり運んだのはシゲルだった。シゲルはあのときのことを思い出して、それ以上突っ込まれないように目を逸らした。

その後もしばらくは、二人の共通の話題、ミズカとサトシの話をしていた。そうなると自然に戻ってくるのは親子の話。

ミズカとノリタカの話になった。サトシがまったく狙われない理由も、ミズカが執拗に狙われる理由もわからない。ミズカはこんな大怪我をした。カスミはミズカに目を下ろす。

「おかしいわよね……。父親が自分の子供を殺そうとするなんて……」

とても悲しいと思う。ミズカはどんな気持ちで立ち向かっているんだろうか。こんなことがなければ、きっとサトシもミズカもお互いに遠慮することなんてなかった。

ミズカに、サトシの父親を奪ったと思わせたのはノリタカだ。本来、そんなことを思う必要がない。眉間にシワを寄せると、ミズカがゆっくり身体を起こした。

「……多分、何か理由があるんだと思う」

カスミは驚いた表情で彼女を見る。

「あ、あんた起きてたの?」
「今、起きた」

ミズカは欠伸をしながら答えた。

「……理由って……、なんだい?」
「わからない。でもさ、矛盾してると思って」
「矛盾?」

ミズカの言葉に、カスミは首を傾げた。

「なんで、今になってあたしを殺そうとしてるかってこと。本当にあたしが邪魔だったら、普通ゲームなんかにしない」

確かに言われてみればそうだ。実際、ポケモン世界に来てジョウトの旅をしている時は、ミズカとノリタカは一緒に暮らしていた。殺すのなら、その時が一番手っ取り早い。

「今更って……、理由がないと殺そうと思わないじゃん。それに、かなり躊躇してるように見える。あたしを刺したとき……、きっと躊躇って深く刺せなかったんじゃないかな。あたしが生きてるのを知っていたのは少し変だと思う。ゲームなんかする気がなくて、本当は殺せるなら、刺したときに殺したかったんじゃないかな」

カスミとシゲルは顔を見合わせる。確かに、シゲルも変だと思っていた。死んでいないことをわかっていれば、ミズカに追い討ちをかけたはずだ。

サトシの言葉も引っかかった。ノリタカが、死んだほうが楽になるようなことを言っていたらしい。本当に恨んでいたら、殺してやった方が楽だと思うだろうか。
6/27ページ
スキ