32章 最後の戦い

「どうしてそう思うんだい?」
「……ミズカのこと、最初関わるのが嫌そうだったじゃない? 嫌いというよりは切羽詰まったように見えたけど」

カスミはシゲルのミズカに対する行動を見ている。たしかに親友からすれば心配かもしれない。シゲルはパタっと本を閉じた。

「正直、二度と会いたくないと思っていたよ」

シゲルは愛おしそうにミズカを眺めた。

「三歳のミズカがどんな人物かはわかってた。好奇心旺盛で、真新しいものに瞳を輝かせていて、それから困っている人を助けられる……」
「……」
「3歳の時点でサトシみたいなんだなと理解した。僕は付き添っただけで遊ばなかったけれど、そのときのミズカが健気で本当に可愛いと思った。遊んだら、きっと許してしまうだろうな、と」
「許したくなかったってこと?」
「許したら、サトシに顔向けできないと思ったんだ。妹の存在を知ったときのサトシの表情は今でも忘れない。サトシが辛い思いをしているのに、自分は彼女のことを知りたいなんて変な話だろう?」

シゲルは苦笑する。

「だからか、僕の気持ちはなかなか複雑で、そのときの出来事以来、しばらくサトシと話せなくなった。そのときに通っていたトレーナーズスクールの先生に『友達は辛いことを半分にできる』と言われて、ようやく話せるようになったんだ」
「……」
「サトシのことは助けても、ミズカとは関わらないと心に決めた。だが、10歳の成長した姿で現れたミズカは、3歳の頃と違って僕に関わろうとしてきた。優しい笑顔で、僕が嫌な態度を取っているのに夕飯に誘ってくる。……困ったことに嬉しかったんだ。嬉しいと思う自分に動揺した」
「じゃあ……」
「確信はなかった。次に会ったときに気持ちを確かめようと思った。……次に会うことを考えていたんだよ、僕」

困った表情で笑うシゲルに、カスミは何とも言えなくなった。理屈じゃない。理屈だったら、友達を悲しませたと、ミズカのことをずっと恨んでいた。

「前にポケモンライド大会の後に僕を追いかけてくれていたことも知ってる」
「え、そうなの?」
「僕の意地をいとも簡単に崩してきた。あんな態度を取ったのに追いかけるなんて普通するかい? 毒気も何もかも抜かれていたさ。ジョウトリーグで会ったが、そのときは彼女のことを好きだと認めてた」
 
カスミは目をしばたたかせた。まさか、こんなにちゃんと説明してくれるとは思っていなかった。

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