32章 最後の戦い

「……ほら、部屋に行くわよ」

カスミに引っ張られ、「えっ?」と聞き返した。ハルカとヒカリを見ると、寝ろと言っているのか頷いている。

「寝ないともたないわよ。部屋でゆっくり休みなさい」

強引に連れられ、病室に入った。普通に動けてもやはり傷は治っていない。ジョーイには、もう少し病室にいるように言われた。

「寝るの?」

今更だが、ベッドを指しながら聞いた。カスミは深く頷く。

「あたしがずっとついてるわよ。夜は夢に魘されるんじゃないの?」
「……バレてた?」
「バレるも何も、その目の下を見ればすぐにわかるわよ」

呆れた表情で、カスミは言った。ミズカは苦笑しながらベッドに乗り、仰向けに寝転がる。そして、カスミがいるからこそ安心できた。そのまま眠りについた。

――やっと落ち着いたみたいね。

カスミは、ミズカが寝たのを確認すると、ホッと一息ついた。ベッドの横にある椅子に座る。穏やかなミズカの寝顔。

「毎日、無理して笑っちゃって……」

ここ一週間、カスミはミズカの笑顔しか見ていない。辛い表情は出さない。それが何故なのかは、彼女にはわからなかった。しかし、何かないとミズカは、無理して笑わないのも知っている。恐らく、父親の事だけではない。もっと何か大切なことだと勘づいていた。

「まったく……、少しくらい話しなさいよ……」

そう呟きながら、ミズカの頬を突っついた。彼女はピクリともしない。眠りが深いようだ。

――心配かけないように笑ってるわけじゃないのよね。

カスミが疑問に思っていることはそれだった。いつもみたいに、心配をかけたくないと思っているように見えない。かと言って、自分の気持ちを抑えてるようにも、カスミは見えなかった。しばらく考えていると、シゲルがお茶を持って部屋に入って来た。そして、お茶をカスミに渡す。

「ありがとう」
「ミズカ……、熟睡してるようだね」
「えぇ、ずっと眠れずにいたみたいだから」
「ジムは、大丈夫なのかい?」
「お姉ちゃん達に頼んでいるから多分……ね」

カスミは何とも言えない表情をした。彼女の姉達はあまり頼りにならない。

「でも、この戦いが終わるまで、ここにいようと思ってるわ。ハルカもそうするって」

ミズカの寝顔を見ながら、カスミはお茶を口に運んだ。ミズカを放ってはおけない。シゲルはカスミとは反対側に座る。あまりカスミもシゲルも二人で話したことはほとんどない。

カスミはちらりとシゲルを見た。シゲルは本を読んでいる。

「ミズカのこと、本当に好きなの?」

唐突な質問。シゲルは目線をカスミに移した。聞かれるとは思わなかった質問にシゲルは目をパチクリさせる。
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