32章 最後の戦い

「なんで教えてくれなかったのさ!」

あれから、十日が経った。痛みはまだあるが、傷は浅くなり、普通に歩けるまでになった。格好は、病院の服だと動きづらいため、ジャージを着ている。

ちなみに今は、ロビーでマサトと会話中である。何故マサトがいるのか。一週間前、ハルカが電話で口を滑らせ、ミズカとサトシのことを話すことになってしまったのだ。マサトはこっそりホウエン地方のトウカシティを抜け出し、ここまで一人で来たというわけだ。

「……ごめん、教えるつもりだったんだけど……。その……」

ミズカは、苦笑しながら、言い訳を探すが出て来ない。マサトは、ムッとした表情で彼女を見た。

「酷いよね。僕だけ除け者なんて……」
「いや、除け者にしようなんて思ってないって……。ね、サトシ?」

何と言えば良いのだろうか。ミズカは、隣にいるサトシにバトンタッチした。

「え、あぁ」

サトシは、勢いよく首を縦に振る。ピカチュウが苦笑した。

「それにしても、よく一人でここまで来たわよね……。マサト……」

その三人を遠目で見ているカスミが言った。

「ママとパパに連絡したら、無事でホッとしたって……。全く、心配かけるんだから……、困ったかも」

ハルカは、ため息混じりに言いながら席を立ち上がった。カスミとヒカリは苦笑する。

「ほら、マサト。いい加減良いでしょ! 二人とも困ってるかも」
「だって……」

ハルカが叱ると、マサトは口を尖らせた。

「……マサト、ごめん。怒るのは仕方ないと思う。でもさ、別にマサトを除け者にしようとか、信じてないとか、そういうわけじゃなかったの。ただ、マサトには心配かけたくなかった。もちろん、皆にも心配はかけたくなかったけどね」

ミズカは、ニコッと笑いながら言った。

「わかったよ……。でも、次からはちゃんと言ってよ!」

マサトは、渋々了解した。ミズカは、彼の次からと言う言葉に少し反応する。彼女には、次からと言う文字がない。

ミズカは、この戦いが終われば、別れを告げる。

「ミズカ?」
「……へ? あ、ごめん。ボーッとしてた」

ハルカに顔を覗かれ、ミズカは苦笑した。まだ、皆には何も言っていない。言う勇気が出なかった。

「あんた少し寝て来たら? 最近寝てないでしょ」
「まあね……」

ミズカは、困った表情を浮かべた。

最近、よく眠れないのだ。父親に刺されそうになる夢を何度も見て魘され、その後、落ち着き眠りにつくまでかなりの時間が掛かる。それに、別れを告げなければならないことも眠りを妨げる原因になっていた。
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