32章 最後の戦い
ミズカは、暗闇に立たされていた。何もない、真っ暗な場所。彼女は目を見開いた。目の前には、ノリタカがおり、ギラギラ光るナイフを持っていた。何故だか身体が動かない。
「イヤ……、イヤ……」
全身鳥肌が立ち、震えた声で言う。ノリタカは、ミズカの言葉を無視して黙って近づく。
「殺さないで!!」
自分の叫びと共にミズカは目を覚まして起き上がった。息が荒く冷や汗が垂れている。
「はぁ……はぁ……。良かった……、夢だ。あうっ……」
急に起き上がったせいだろう。腹に激痛が走る。どうやら、彼女は夢に魘されていたらしい。時計を見ると、まだ三時。真夜中で、仲間は他の部屋でぐっすり寝ている頃だ。エーフィとピチューは、ミズカが刺されたりと、色々あり、疲れているのだろう。隣にいるのに起きなかった。
「……この戦いが終わったら」
寂しそうな表情で、ミズカは、エーフィとピチューを見た。撫でようとするが、起こしてしまっては悪い。そう思いやめた。
「この戦い……、勝っても負けても……、あたしは……」
ベッドをゆっくりと降りた。そして、窓の前まで歩き、外の三日月を見た。三日月がにやりと嘲笑っているように見える。
「あたしは……、皆と会えなくなる」
窓ガラスに触れた。自分の姿が薄く映っている。もし負けたら、死を意味する。仲間とは二度と会うなくなる。しかし、勝っても会えなくなる。
ふと考えてしまったのは、解決してからのこと。そもそもミズカが、ポケモン世界へ呼ばれた理由は、ノリタカに殺されるかもしれないと、オーキドが気遣ってくれたからだ。ポケモントレーナーになれば、立ち向かえると考えてくれたからだ。
だから、解決すれば、この世界に来る理由がなくなる。それに、ミズカはこの世界で生まれたわけではない。おそらくは、本来ならポケモン世界があることを知ってはいけなかった。
『僕達は、この世界では存在しない。それは、この世界の血が流れていないからなんだ。つまり本当はここに居てはいけない……。存在してはならない。君は、この世界とあちらの世界の血も混ざっている。だから、どちらの世界にも存在していられるんだよ』
こないだのシゲルの言葉を思い出す。あの時シゲルは、ミズカの住んでいる世界の血が流れていない。だから、存在してはいけないと言った。
しかし、血が繋がっていても同じなはずだ。その世界に生まれた以上、ポケモン世界に生まれた父親がいようが、兄がいようが、住まなければいけない環境はある。
行く理由がなくなったら、当然、住むべき場所にいるべきなのだ。なんせ世界が違うのだから。それを思ったのは、手鏡を通して行くたびに時空を歪ませている感覚があるから。
向こうの世界でミズカは8歳から旅をしている。今は14歳。なのに、ポケモン世界では皆の年齢は変わらない。そして、ポケモン世界にミズカが来ると、3日旅をしている期間があっても、もとの世界では2、3時間くらいしか経っていない。
明らかな矛盾。時空が歪んでいるとしか考えられない。