31章 存在

「ただいま~。ふぅ、腹減ったぜ」

お腹を擦りながら、サトシが言った。女子四人は、呑気な彼にため息をつく。

「すまない。さっきまで、ジョーイさんと話をしていたんだ」

遅くなった理由を、シゲルが話す。ノリタカとの間に何も起こらなかったことがわかり、尚更、安心する。

「それでさ、ジョーイさんが飯だって!」
「……サトシの頭は今、ご飯のことでいっぱいかも」

ため息混じりにハルカが言った。ミズカは苦笑する。

「というわけで、ミズカには、食堂までこれに乗ってもらうぞ」
「タケシ……、いつの間に……」
「今来た」

サトシが驚きながら車椅子を見つめる。タケシはベッドの横に車椅子を置いた。

「あたしも行くの? てっきり、病室で一人で食べるのかと思ってた」
「ジョーイさんに、皆で食べたいから、病室で食べるって言ったんだ。でも、ここに七人の食事を置けるテーブルはないだろ? だったら、車椅子でミズカを食堂に連れて来いってさ」
「へぇ」

サトシに言われ、納得する。皆で、食べられるのは、彼女にとって嬉しかった。ということでミズカは車椅子に乗った。食堂まで行き、夕食を食べながら、他愛のない会話をした。ミズカは、また仲間と食事を出来ることが嬉しく、それだけで、生きている事が楽しかった。

――この夢のような出来事がずっと続いてくれれば良いのに……。

この時、ミズカが何かに勘づいていることに、誰も気づいていなかった。いや、そんなことすら、考えてもいなかった。別れが近いことを……。
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