31章 存在

「もう無茶はしないようにね。無茶したら、次は本当に説教ですからね」

包帯を巻き直したジョーイさんはキレ気味だった。ミズカは苦笑する。それを見ながら、ジョーイは部屋を出て行った。ちなみに、カスミ、ハルカ、ヒカリのそれぞれの自己紹介は既に終わらせてある。

「でも、よく傷口が開かないように自分から攻撃に当たったわね……」
「狙いはこの傷口だって、すぐにわかったから……。自信はなかったけどね……」

ヒカリが呟くと、ミズカは笑った。そう、彼女がこうして普通にいられるのも、自ら攻撃に突っ込んだからである。しかし、やはりポケモンの技だ。受けた直後は死にそうに痛くて喋れなかった。その証拠に傷とは別のところに痣ができていた。

カスミは、いつもながらに無茶苦茶なミズカにため息をついた。

「ヒカリも大変でしょ?」
「え、えぇ。サトシに似てね」

ハルカに聞かれ、ヒカリは苦笑した。

「ところで、タケシは?」

ミズカが聞いた。

「ジョーイさんに迷惑かけてばかりはいられない。俺は手伝って来る。とか言って、何処かへ行ったわよ」

カスミは呆れた表情で言った。ハルカとヒカリはため息をつく。

「迷惑かけてるのあたしなのに……」

苦笑しながら、口に水を運ぶ。エーフィとピチューも苦笑している。

「まあそれは仕方ないじゃない。……そういえば、あんた、シゲルといい雰囲気だったわよね?」
「っぶ」

いきなり思ってもみなかったことを聞かれる。ミズカは水を吐き出さないまでも、噎せてしまった。顔が赤くなる。確かに二人が入ってきたとき、シゲルが隣りにいた。

「告白されたの?」
「え……」
「はーい! あたしわかりまーす」

言葉を詰まらせると、面白そうにヒカリが手を挙げた。ミズカは言わせまいと、ヒカリの口を塞ごうとするが、腹の痛さに負ける。ヒカリはその間に告白の一部始終を話した。

「へぇ、さすがシゲルね」

カスミは、ニヤッとしながら、ミズカを見る。ミズカは顔を赤らめながら目を逸らした。

「いいなぁ。シゲル、格好いいかも!」
「……そういえば、何でハルカはシゲルのこと知ってるの? さっき普通に話してたよね……」

ミズカは話を逸らす。もうこれ以上、からかわれるのはごめんだ。

「前にミズカの住んでいる世界に、カスミ達が行く前、オーキド博士に連絡したら、一度シゲルに連絡して欲しいって言われたの。その時に、電話で話してあっちの世界に行くか行かないかを伝えたのよ」
「なるほどね」

お互い連絡していなくとも、名前は知っていたのだろう。ハルカはサトシに話を聞いていてもおかしくないし、シゲルは、オーキドからハルカについて聞いていてもおかしくない。それで、すんなり連絡出来たのだと、ミズカは納得した。
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