31章 存在

最初は事情を話していただけだが、もう説教に入りそうだ。

「僕が悪いんです。彼女と一緒にいたのに、ちゃんと見ていなかったから……」
「だけど、身を投げたのは彼女でしょ」

ミズカは苦笑した。たしかに、その通りだ。ちなみに、彼女は今、喋ることをシゲルから禁止されている。そのため、表情を作るだけだ。

「たしかに。しかし彼女の状況でしたら、僕も同じことをしてしまうと思います。父親に脅迫されたら、仲間を守りたいと考える。ジュンサーさんなら、わかって頂けると思っていたのですが……、残念です」
「う……、そうね……」

ミズカはシゲルが押されていたと思っていたが、気づいたら立場が逆転していた。今度は、ジュンサーが押されている。シゲルの表情は、しっかりとジュンサーを捉えていた。斜め前にいるジョーイを見ると、このやり取りが面白いのか、クスクス笑っている。

「彼女は不器用です。僕らも彼女が無理をしないように気をつけます。……許してはもらえませんか?」
「……わかりました。あなた達を信じます。だけど、決して無理はしないこと、いいわね」
「はい」

シゲルとミズカは頷いた。

「私はこれから、急いで貴方の父親を捜索します」

結局、説教はないに等しかった。さすがと言えば良いのだろうか。ミズカは顔には出さなかったが、心底驚いた。

「さてと、ミズカちゃんはちゃんと安静にしていなさい。お腹の傷、痛いんでしょ?」
「はい……」

話が終わると、ジョーイが口を開けた。ミズカは苦笑しながら頷く。ジョーイとジュンサーは、部屋を出て行った。

「……ふう……、シゲル、有り難う」

ミズカのホッとした表情を見て、シゲルは苦笑した。相当、ジュンサーの説教が嫌だったのだろう。

「ねぇ、シゲル……」
「なんだい?」
「……お父さん、あたしが死んだと思ってるかな……」

少し言いづらそうな表情でミズカは言った。シゲルはそんな彼女の隣に座る。

「……なんか気になって」

ミズカはため息をついた。気になって仕方ない。

「……どうかな。あの状況を考えるとそう思っているのではないかと思う。だが、君がもとの世界へ戻れば、間違いなく気づかれる」
「……なんで?」
「手鏡に反応する発信機があっただろう? あれが、盗られていたんだ」

シゲルが言うと、ミズカは驚いた表情を見せた。まさか、持ち物まで盗られていたとは夢にも思っていなかった

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