31章 存在

――二人とも、あたしを忘れてる……。

そんな二人を見ているヒカリはため息をついた。別に構わないが、見ていることが悪い気がしたのだ。

「ミズカ、ご飯持ってきたぜ」

ヒカリが少し困っているとタイミングよく、サトシとタケシが戻って来た。

二人の隣には、ジョーイがいる。

「本当!?」

嬉しいのか、腹の怪我も忘れ、勢いよく起き上がってしまった。当然、激しい痛みが走る。一同、学習能力のないミズカに呆れる。

先程まで、貧血だったのを知っているヒカリとシゲルは特にそうだった。エーフィとピチューは顔を見合わせると、主人の馬鹿っぷりに笑いを堪えた。

「……重症者は動いちゃ駄目よ」

ジョーイは怒り気味に言う。が、目は笑っていた。刺されたのに、よく元気なものだと思ってしまったのだ。

「はい……、すみません」
「さてと、お腹の包帯取り替えるわね」
「えっ。あの……、ご飯は……」

とにかく食べ物を口に入れたいらしい。さっきから限界は通り越している。

「包帯を取り替えるのが先です。皆は少し部屋に出ていてね」

言われるがまま、四人は部屋を出た。ミズカはジョーイと2人きりになる。

「じゃあ、包帯を取るわね」

ジョーイは、ミズカの腹に巻いてある包帯を取り始めた。

「昨日は、凄く血まみれでビックリしたわ。まあ、連れて来た本人達も凄く動揺していたけどね。動揺しながら、ちゃんと止血していて、貴女を動かさないように担架を作って運んできて、処置は完璧だったけれど」
「……そうですか」
「一時は本当に危ない時もあったのよ」

返答に困る。なんと言えば良いのだろうか。困っている間に、ジョーイは包帯を取り終わり、別の包帯を慣れた手つきでさっきと同じ所に巻き始めた。

「……強がらなくていいのよ。身体が小さく震えてるわ」

ジョーイの言葉に、ミズカはため息をついた。

「馬鹿みたいですよね……。自分から突っ込んだのに、こんなことになる可能性は、心の何処かでわかっていたはずなのに……。なのに、自分が刺された時の記憶が、何度も何度も頭に流れるんです」
「当たり前です。自分から突っ込むなんて普通じゃないわよ」
「ですよね……」

ミズカは苦笑した。普通じゃないのは重々わかっている。
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