「ピカピ」

ピカチュウがサトシを呼んだ。サトシはニッと笑う。

「そうだよな。悩んでいたって仕方ないよな」

サトシはソファーを立ち上がった。ピカチュウは頷き、彼の肩の上へ移動する。

「タケシ、部屋に戻ろうぜ」
「あぁ。その前にジョーイさんを呼ばないとな」

タケシが言うと、サトシは「わかった」と頷く。すぐにミズカのところに戻りたくなったのか、タケシを置いて急いでジョーイを呼びに行ってしまった。少し呆れながらも、タケシはその後をついて行った。

「調子はどうだい？」

部屋に戻って来たシゲルはミズカに話しかけた。

「う～……」

ミズカは、ベッドに仰向けになり、手を額に当てて辛そうにしている。

「……何か、無茶なことでもしたのか……？」

ピンときたのか、ヒカリに聞いた。彼女は呆れた表情で笑っている。どうやら、本当に無茶をしたらしい。

「なんか、シゲルとサトシが心配だから、行くとか言いだしたの……。止めたんだけど、無理矢理ベッドを降りちゃって……、そしたら貧血に……」

エーフィとピチューは呆れた表情でため息をついた。ミズカの無茶っぷりはわかっているが、ここまでとは呆れてものも言えない。

「……頼むから、今は自分のことを考えてくれ。君は怪我人じゃないか」
「うん……。そうだね。反省してる……。だって後、1、2センチ深く刺されてたら、死んでたんだもんね……あたし」

ミズカが無理矢理ベッドから降りようとした時に、ヒカリが説明したのだろう。だいぶ体調が良くなったのか普通に話している。

ミズカは、あまり感情を入れずに言った。後1、2センチ深く刺さっていたらと思うとゾッとする。

「……すまない」
「な、なんで謝るの？」

シゲルが急に謝る。ミズカは驚いて、目をぱちくりさせる。

「……君を守れなかったから。それに、二年前の事も含めて」
「……やっぱり、気にしてたんだ……。二年前の事……」

あまり気にして欲しくはなかった。二年前、サトシやシゲルが自分を見てどう思ったかなんて、言われなくてもわかる。まずノリタカを恨んだはずだ。そして次に自分……。三歳の何も知らない少女を目の前にし、相手にするのは、さぞかし苛立ち、恨んだことだろう。

「すまない……」
「もう良いよ。あたしは全然気にしてないし」

もう一度謝るシゲルに、ミズカはそう言った。気にしていないわけじゃない。本当は物凄く気にしている。しかし、気にするシゲルにそういう言葉しか見つからなかった。

「だが、こないだも話した通り、今は違う。むしろ、君で良かったと思ってる」

真っ直ぐな瞳で言われ、ミズカは顔が赤くなる。そう言えば、自分はシゲルから告白を受けて、しかも、返事までしているのだと今更だが自覚した。