31章 存在

「はあ……。どうするかな……」

ロビーで、ため息をついたのはサトシである。その隣には、シゲルがおり、2人ともソファーに座っていた。ピカチュウはサトシの膝の上で、心配した表情をつくる。オーキドにはすでに連絡済みだ。

ミズカが無事でとても安心していた様子だった。

「二年前のことかい?」

シゲルは聞いた。サトシを見るとその表情に元気はない。

「あぁ」
「ミズカは、わかってるよ。サトシが二年前の事を思い出したこと、その時にミズカに抱いた感情も。彼女は気づいてる」
「それが……、恨みとか、嫉妬とかそう言う感情だから余計……か」

サトシは再びため息をついた。自分で言っていて嫌になる。何故、2年前、自分はそんな感情を持ってしまったのだろうか。ミズカを知らなかったにせよ、お門違いも甚だしい。

今から2年前に遡って、自分を思い切り叱りつけたい気分だった。そんなサトシの頬にいきなり冷たい物が当たった。

「冷たっ!」

かなり驚いたのかサトシは飛び跳ねる。

「俺は、そこまで悩む必要はないと思うが……?」
「タケシ!?」

冷たい物は、缶ジュース。それをサトシの頬に当てたのはタケシだった。

「悩む必要がないって?」
「いや、なんとなくだ」
「なんだよ、それ!」

サトシはムッとした表情になった。根拠くらい欲しかった。

「……ところで、ミズカは……?」

話を変えた。これ以上、根拠のない話を今はしたくない。

「ミズカなら、もう平気だ。大分、余裕も出てきたみたいだからな」
「余裕?」
「腹が減ったらしい。口からじゃなく、腹の虫が言ったから間違いないだろう」

タケシが言うと、サトシとシゲルは吹き出した。いつも余裕がなかったり、落ち込んだりすると彼女は食欲がでなくなる。その様子を聞いて少し安心した。

「それじゃあ、僕は戻ってるよ」

シゲルは、ソファーからゆっくり立った。

「サトシ」

二、三歩進むと、立ち止まり、サトシを呼ぶ。

「なんだ?」
「僕は、今、ミズカをどう思っているかの方が大切だと思う。……サトシの気持ちがわからないわけじゃない。むしろ痛い程わかる」

シゲルの言葉に、サトシは首を傾げる。

「……僕も二年前はそうだった。いや、今のミズカに会う日まではね」

シゲルは言い残すと、部屋に戻って行った。サトシは目を見開く。しかし、考えてみればそうだ。ジョウト地方でシゲルに会った時、ミズカの名前を聞いて、様子が変だったのを覚えている。きっと、これで様子が変だった。

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