3章 チコリータ、ゲットだぜ!

「違うんです! チコリータはこの子のポケモンじゃないんです!」

カスミがミズカを庇う。ジョーイは目を見開いた。

「どういうこと? ーーって、そんな場合じゃないわね。すぐに治療室で手当てします! 事情はその後に聞くわ!」

ジョーイはミズカからチコリータを預かると、ラッキーと一緒に治療室へ入っていった。ミズカは治療室の前で待つ。赤く光る『施術中』の文字を見つめる。

チコリータの無事を願いながら、猛省した。

チコリータが病み上がりとは言え、回復していたのなら、ミズカは追いかける必要はなかった。追いかけていなかったら、チコリータは川に落ちていない。

さっきのタケシの話を考えると、自分が関わったせいだと思える。ジョーイに怒られてハッとした。確かにカスミの言う通り、自分のポケモンではない。が、近くで見守っていたのは自分だ。

治療の方法もわからない。ただ、近くで見守って、結局、チコリータにジョーイに怒られるくらいに怪我をさせてしまった。

自分を責める。

「ミズカ」

優しくカスミがミズカの肩に手を置いた。

「カスミ……」
「ミズカは何も悪くないわ」

カスミはミズカの心を悟ったらしい。カスミからすれば、ミズカの対応は十分だったと思える。そもそも彼女は、ポケモンがいない世界に住んでいる。そして、トレーナーになって2回目の訪問だ。森の中の過ごし方だってわかっていなかった。それはミズカの知識不足という言葉では片付けられない。

ミズカは元々旅とは無縁の世界にいたのだから、知識がなくて当然だ。

「でも……」

ミズカが顔を歪める。

「あなたはチコリータを必死で助けようとしたじゃない! ミズカがチコリータに気づいてなかったら、チコリータはもっと大変だったと思うわ!」
「……」
「ミズカの気持ちは十分チコリータに届いたわよ!」

もしミズカなしにチコリータが男に会っていたらと思うとカスミはゾッとする。もしかしたら、チコリータをまた無理矢理に従えて、ストレス解消の道具にしていたのではないか。

ミズカがいたから、最悪の事態は免れた。それはチコリータにも届いているとカスミは思う。

「そう……?」
「だって、チコリータは川から助けてくれたんでしょ?」

ミズカはピタリと身体の揺らしを止めたかと思うと、顔をゆっくり上げた。

「あんな人間の事なんか起きたら忘れてるわよ! あれは悪い夢だったってね!」

力強くミズカに話す。ミズカが気に病む必要はない。何もないところから関わりを持とうとするミズカをカスミは素直に尊敬している。

そんな様子がサトシとも被った。肩を掴む手に力が入る。トレーナーとして日は浅いかもしれないが、彼女はもう立派なトレーナーだ。わかってほしい。

ミズカはカスミの訴えが伝わった。

「ありがと……」

ミズカの瞳が煌めく。カスミに元気付けられた。こういうとき、先輩トレーナーの言葉は励ましになる。ミズカは気を取り直す。今はもうポケモンセンターだ。きっとジョーイが助けてくれる。

自分がやることは、そのあとをサポートして、無事に野生に帰すことだ。友達になってほしい。仲間になってほしい。それは自分の我儘だ。

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