31章 存在

「最初からポケモン世界に来たことがいけなかったのかも」

口に出す。こんなことを言っても困らせるだけなのに。ヒカリは困っている様子だが、タケシは冷静にベッドの横にある椅子に座った。

「お前が存在しているから、ピチューはここにいるんだろう?」

タケシの口調はいつもより数段柔らかかった。ミズカは思わず首を傾げる。

「お前が存在していなかったら、ピチューはロケット団の実験台に戻っていただろう? 他にゲットした仲間もお前が助けてなかったら、今頃、どうなっていたかわからないぞ?」

やっと話が掴めた。タケシは、自分の存在は大切だと言ってくれているのだ。しかも、説得力がある。

「エーフィも、ミズカだから一緒に旅をしている。そうだろう?」

タケシが聞くと、エーフィは深く頷いた。

「それに、ミズカはもしサトシと逆の立場だったら、サトシと出会いたくなかったと思うか?」
「……絶対に思わない。むしろ出会えて良かったって思う」

ミズカは首を横に振る。タケシは微笑んだ。

「サトシだって同じ気持ちだ。ミズカを向こうの世界に迎えに行ったのは、出会えて良かったと思ってるからだ」
「タケシ……」
「俺もミズカに出会えて良かったと思っている」
「あ、あたしも!」

タケシの言葉に乗り遅れないようにヒカリも手を挙げる。ミズカは心が温かくなるのを感じた。二人の優しさが心に染みている。

「俺たちが一番傷つくのは、ミズカ自身がミズカという人物の存在を否定することだ」
「……」
「人間、良いことも悪いこともあるさ。時には、こんな怪我もな」

そう言った後にタケシは、「それはないか」と笑った。ミズカも、つい笑ってしまった。

「ミズカは笑ってる方が良いわ!」

ヒカリは、ニコッと笑いながら言った。

「まあ、シゲルもお前じゃなかったら、好きになっていなかっただろうしな」
「た……、タケシ!」

顔を真っ赤にし、ミズカはムッとした表情になった。しかし、その表情は和らぐ。

「ありがとう。なんか少し元気になった気がする」
「それだけ、元気に怒れれば大丈夫!」
「ヒカリ、それは一言多い」

ヒカリの言葉にミズカは、ため息をつきながら言った。ヒカリは苦笑する。ミズカは自分の存在が、しっかりとこの仲間の中にあることを知った。

存在している意味を少し見い出せた気がする。少しだが元気になったミズカを見て、エーフィとピチューは顔を見合わせ笑った。主人の笑顔を見るのがとても嬉しかった。
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