31章 存在

「あ、サトシ。オーキド博士に電話するって、さっき言ってたわよね?」

ヒカリの言葉に、サトシはハッとした表情になった。どうやら、ミズカが目を覚ましたことで、すっかり忘れていたらしい。

「そうだった。シゲル、行こうぜ!」

シゲルはサトシを呆れた表情で見ながら頷いた。

「オーキド博士に電話するなら、あたしも……。……っつ……」

普通にベッドから降りようとしただけで、腹に激痛が走った。しばらく部屋から離れられそうにない。

「そんな状態じゃ、無理だな」

タケシに言われ、ミズカは顔を歪めながらも苦笑した。

「じゃあ行って来る」

ミズカに呆れながらも、サトシとシゲルは部屋を出て行った。

「……あの2人、凄くショックを受けていたぞ。エーフィもピチューも」

タケシの言葉に、ミズカは、まだマグカップの中に少し入っているココアを寂しそうに見た。

「……ごめん」

それしか言葉に出来なかった。エーフィとピチューは、ミズカを心配した表情で見た。彼女は何を思ったか何やら話し始めた。

「あたし、このまま死んじゃったら、自分がやりたいこと出来なくなるんだなぁって思ったの。みんなと一緒にいたい。だから、お父さんを説得する。立ち向かうしかないと思った。でも、皆の傷つくところも見たくなかった。正直、お父さんを説得する自信はなかった……。全然言いたいことがお父さんに伝わらなくて……、攻撃ばかり受けて、自分がどうするべきかわからなくなってた。エーフィが叫んでくれなきゃ、あたしは本当に死んでいたと思う。だから、本当にごめん」

自分の未来があってほしい。仲間とずっと一緒にいたい。ずっと笑っていたい。そう思って、説得するつもりだったのに、ノリタカは全く聞き入れてくれなかった。

刺された時の記憶は思い出すと吐き気を覚えるほど、怖かった。そこまで覚悟していたはずなのに、思い出すと鳥肌が立つ。

倒れていた自分を見たとき、仲間たちは相当なトラウマになってしまっただろう。結局、皆を傷つけたことに後悔する。
2/19ページ
スキ