30章 戦慄の戦い

「じゃあ、行こうぜ」

ミズカ達は、村に向かい歩き始めた。歩いている途中、ミズカは一言も喋らなかった。

途中、昼食を食べて村に向かって歩いているうちに、辺りはすっかり暗くなっていた。

「ここら辺で夕食にしよう」

本日三度目の休憩。

「……あたし、いらないや」

無論、断ったのはミズカである。さすがの彼女も食欲がないらしい。 

「ミズカ、食欲がないのはわかるが、食べないと保たないぞ」
「そうよ。昼食も食べなかったじゃない! 食べよ?」

タケシとヒカリの言葉に、仕方なく席に着いた。彼女は、昼食の時も食べなかった。

「いただきます」

そうは言うが、ミズカはご飯に手をつけられなかった。正直、悠長にご飯を食べている場合ではない。

『仲間がどうなってもいいならな』

頭に何度も何度も繰り返される情景に言葉。いい加減、耐えきれそうになかった。

仲間は関係ない。巻き込みたくない。元々は自分が生まれたせいでこうなった。現にもう巻き込んでしまっているではないか。みんなは良いと言う。一緒に立ち向かおうと言ってくれている。だが、それで本当に良いのだろうか。自分の覚悟は足りないのではないだろうか。

この世界に戻ってきたから、守ろうなんて、自分がポケモン世界に来たかっただけではないか。

「あたし……、ちょっと散歩して……」

ミズカは静かに立ち上がる。まだ間に合う。まだ仲間を本当の意味で巻き込まずに済む。

立ち上がったミズカを見て、隣にいたシゲルが腕を掴んできた。ミズカは目を見開いて、彼を見る。

「本当に散歩かい?」
「さ……、散歩だよ」

辺りが暗くて良かったかもしれない。急なことで心臓はバクバクと音を立て始めた。

「……僕も行くよ」

そう言って、シゲルも席を立ち上がった。ミズカは引きつった表情を見せる。それではシゲルを巻き込む。

「そ……、それは……ちょっと」

咄嗟に理由を作れなかった。焦ってしまい、動揺する。

「散歩じゃないのかい?」
「う……、ううん……。し、シゲルも来るなら、食事が終わったらで良いよ」

とにかく腕を離して欲しかった。ここまで動揺しているのはシゲルだからだ。他の人だったら、もっとうまく躱せた。

触れられるだけで、まさか顔が熱くなるなんて……。ミズカ自身思っていなかった。まっすぐに見つめられる。心臓がうるさい。

ミズカは、それを隠すように再び席に着いた。
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