30章 戦慄の戦い

いつものミズカだったら、仲間を巻き込まずに済む方法を考えているはずだ。いや、待てよとサトシは考える。巻き込まない方法を考えた結果がこの震えだとしたら……。だから、自分から目を逸らすのだとしたら……。サトシの額から一筋の汗が流れた。

「……ミズカ」

サトシは恐る恐るミズカに声をかける。ミズカは震えた声で、「何?」と返した。

「まさか、死にに行く気じゃないだろうな」

ミズカの体はピクリと反応した。図星だ。サトシ達は、ため息をつく。エーフィとピチューは、ミズカの気持ちが伝わって耳を下げた。

「ミズカも僕達も混乱している。何処かで少し休憩しよう」

シゲルの提案にサトシ達は頷いた。そして、何処かスペースのある所を見つけると、休憩することにする。

「……カ。おい、ミズカ?」
「へ……。え?」

タケシに話しかけられ、ミズカは我に返った。見ると、地面に輪になって座り地図を広げていた。輪になり座ったのは覚えているが、どうして地図が広がっているのかは意識が飛んでいる。

「あ……、ごめん。……全然聞いて……なかった」

ミズカは精神的に参っていた。昨日の不安だった夜を思い出した。もし、このままノリタカに背いて、夜を迎えたら……。仲間がどうなるかわからない。

エーフィのように傷つけられるだろうか。仲間たちのポケモンが奪われるだろうか。

たとえば、サトシの前からピカチュウがいなくなってしまったら……。サトシは兄妹だからノリタカの中では仲間に入っていないかもしれない。だが、もし入っていれば、一番巻き込まれそうなのはサトシだ。嫌な方にしか考えられない。

「この先に小さな村があるみたいだ。そこに助けを求めようと言っていたんだが……」
「……うん、わかった」

ミズカら話半分に頷いた。ちゃんと聞いているかはわからなかったが、タケシはとりあえず自分たちがしっかりすれば良いだろうと思っていた。

「なぁ、タケシ。その村にはいつ着くんだ?」
「遅くても夜中には着くぞ」

タケシから聞くと、サトシは「そうか」と返事をした。

「ミズカ、もう少し休むかい?」
「いや……、いいや。村に向かおうよ」

休んでいても、休んだ気にはならない。ならば、早く村に向かった方が少しは落ち着けるのではないか。

「大丈夫?」
「うん」

心配そうにヒカリが聞くとミズカは、無理にニコッと笑った。その顔はお世辞にも大丈夫そうだとは言えない。ミズカの顔からは血の気がなくなっている。

立ち上がったミズカは、ふらっとしていた。

3/11ページ
スキ