30章 戦慄の戦い

「……ズカ、ミズカ!」
「……う……ん?」

翌日早朝、ミズカは誰かの声に起こされた。それは、サトシの声でも、ヒカリの声でも、タケシの声でもない。

とりあえず、寝惚けながらも体を起こす。

「やあ、起きたみたいだね。すまないが、すぐ支度をしてもらえるかい?」

最初は視界がボヤけていてよく見えなかったが、次第に視界がハッキリとした。ミズカは自分の目の前にいる人物に目を見開く。

「し、シゲル!? なんでここに?」

シゲルがいた。サトシ達は既に起きており、支度をしている。あまりの真剣な表情に、好きな人を前なのに嬉しさも何もない。違う緊張感がミズカを襲う。

「緊急事態なんだ。説明は後にさせてもらうよ」

シゲルに言われ、首を傾げながらも、支度をし始めた。聞かなくても、父親のことだということは想像がついた。が、何の話かはわからない。

「支度、終わったよ」

まだ頭がボーッとしている。なんとか支度を終えた。

「いいかい。よく聞くんだ。君の父は、今、手鏡を持っていない」
「……はい?」

いくら父親のことだとわかっても状況が掴めない。

「父さん……、手鏡を持たずにこの世界に来られるみたいなんだ」

黙っていたサトシが言う。少し間を開けて、ミズカは、ようやく驚いた表情を浮かべた。やっと頭が働いてきたようだ。状況が掴めてきた。

「ようするに……、手鏡に反応する発信機は……、……お父さんが近くにいても反応しないと……?」

ミズカが聞くとシゲルは頷いた。

「元々、手鏡は世界と世界を往来する手伝いをするものなんだ。手鏡を使って往復すればするほど、手鏡を使わずに世界同士を繋ぐ道を自力で創れる」
「ミズカも最初は、手鏡に帰らしてとか言って帰ってたけど、今はそうじゃないだろ?」

タケシの言葉に納得する。最近は手鏡に何も言わずボタンを押すだけで往復する事が出来ている。

「君より、父親の方が多く世界を往復しているからね。多分、それで一人で世界を往復する方法を感覚で身につけてしまったんだと思うよ」

驚いた。まさか手鏡がなくても、もとの世界とポケモン世界を往復出来るとは……。その分、不安にもなる。エーフィとピチューは、そんなミズカを見て顔を見合わせる。

昨日のミズカの不安な表情が思い出される。自分たちが声をかけて、やっと眠れたミズカ……。心配になる。

「フィ」
「ピチュピチュ」

ピチューは、ミズカの肩に乗った。自分を元気づけてくれているのだろう。

「あたしは簡単には負けないよ」

ミズカはニコッと笑った。

「それはどうだかな」

しかし、ミズカの笑顔は一瞬にして消される。目の前から堂々と父親が歩いてきた。
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