3章 チコリータ、ゲットだぜ!

ミズカは片手でチコリータを抱えながら、ポケットから慎重に、しかし素早く手から滑り落ちないように空のモンスターボールを出した。

「チコリータ……。このモンスターボールに入って!」
「チコ……」

チコリータは嫌がる。やはり、人間のポケモンになるのは嫌だろうか。しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。

「お願い! 別に仲間になってとは言ってないの! このままじゃ、また大怪我しちゃうから!」

ミズカは叫ぶ。チコリータは顔を歪めながら、ミズカを見つめた。違う。そういう意味で嫌がったのではない。チコリータは自分がモンスターボールに入れば、ミズカが酷い怪我を負うことをわかっていた。

こんなにチコリータ自身のことばかり考えてくれる人のモンスターボールに一瞬でも入りたくないと思うわけがない。しがみついた意味が伝わらないことが少し悔しい。

チコリータは目まぐるしく変わる木々を見つめる。彼女は空のモンスターボールを差し出した。しかし、一緒に助かる方法はある。昨日は献身的に看病してくれていたらしい。だから、ギリギリ技を出す力が回復していた。

チコリータは、自身のつるを1本伸ばす。そして、狙いを定めて、1つの木に巻き付けると、グッとミズカごと持ち上げた。そして、もう1つのつるでバランスを取り、岸に下ろす。

ミズカは呆気に取られた。手にあった空のモンスターボールは、手の中で滑って滝に流されている。チコリータを見つめる。力は残っていないはずだ。なのに、チコリータは助けてくれた。

「ありがとう。チコリータ」

ミズカはチコリータの頭を撫でた。チコリータはチラッと笑顔を見せて、ミズカの腕の中で意識を失う。

「ミズカー!!」

カスミとイーブイが追いかけてきたらしい。カスミの手にはモンスターボールがあり、どうやら水ポケモン達で助けてくれようとしていたらしかった。カスミのヒトデマンが川を上がってくる。

「ミズカ、大丈夫?」
「うん……、チコリータが助けてくれた! 戻ろ? チコリータ、気を失っちゃって……」

ミズカはチコリータを抱いたまま立ち上がった。が、先程まで川の激しい力で身体が痛めつけられていた。身体が酷く重い。服に水が染み込んでいて余計だった。

重さに耐えきれず、膝がガクリと曲がる。それでも、チコリータが優先と流れてきた道を戻り始めた。
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