27章 覚悟

「良かったな」

ミズカは頷くだけで、返事は出せなかった。もう話すことも出来ない。サトシは電話の近くにあったスツールにミズカを促した。

ミズカはしばらくそこで泣いた。かれこれ三十分が経った。ピンと張り詰めていた気持ちが緩んだ。安心したものが一気に涙として溢れてしまった。

サトシはジョーイから貰ったティッシュの箱をミズカに差し出したまま、泣き止むのを待っていた。自分の母親ながら、ここまで泣かさなくて良いだろうと思う。

「ズズッ」

ミズカが鼻を啜った。顔は真っ赤になっており、酷い顔だ。思わずサトシは吹き出した。

「何、笑ってんの……。ズズッ」

ミズカがムッとした声を出す。お互いに吹っ切れた。

「いや、なんか今日は色々とあったな……ってさ」
「長い1日だったね。さっきまでサトシがあっちの世界にいたのが嘘みたい」
「そのときは、こんなふうに話せると思ってなかったけどな」

サトシの言葉にミズカはキョトンとする。目が合う。さっきまでの気まずさは一体何だったのか。急にさっきまでの自分たちが馬鹿馬鹿しくなって今度は二人で笑い合った。

「まあ、まだ終わりじゃないけど」

ミズカがボソリと言うとサトシは苦笑する。
彼らには、父親という敵がいる。解決しないと、ミズカに未来はない。

泣いたせいか顔が熱くなり外の空気が吸いたくなった。ミズカとサトシは外へ出る。夜風が気持ちいい。そこへ、先程のレントラーが顔を出した。

「どうしたの? 何かあった?」

ミズカが聞くと、レントラーは首を横に振った。ミズカとサトシは顔を見合わせ、首を傾げる。

「じゃあ……、どうして、ここに?」
「ガウ!」

さっき、ミズカがピンチだった時、指示を待っている吠え方と一緒だった。ミズカは目をパチクリさせる。

「……あたしと一緒に来たいの?」

レントラーは頷いた。いつもなら飛びつくぐらい嬉しい話だが、今のミズカは飛びつけるほど喜べない。

「……気持ちは嬉しいけど、ていうか、あたしもあなたと旅したいけど。でも、迷惑は掛けられない」
「ガウ」
「これから先、さっきよりも酷い事になる。あたしだけじゃない。あなただって、あたしの仲間になれば、大怪我をする可能性だってある。だから、ごめん」

謝る。ここまで言えば、レントラーは帰ってくれるだろうと思ったが違った。レントラーは退かなかった。ジッとミズカを見つめている。
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