27章 覚悟
「あなたは何も悪くないじゃない」
優しい口調で、ハナコは言った。
まさかミズカが電話してくるとは思わなかった。ミズカの気持ちを考えれば、罪悪感でいっぱいだろうと思ったからだ。ただ、ハナコはそんなことを少しも思っていない。
そもそも、向こうの世界から来たという時点で何となく察していた。ノリタカの子供なのではないかと。だから、ハナコは自分のことよりもサトシとミズカがどうなってしまうのかの方が心配だった。
何も知らない息子が楽しそうに旅の話にミズカの名前を出す度に胸が締め付けられそうになった。二人の問題は二人が解決するしかない。果たして、自分の息子にできるのだろうかと。
だから、今、一緒にいる姿に安心している。勇気を持って。電話をしてきたミズカと自分に電話するミズカに付き合った息子にハナコは花丸を心で送る。そういう二人で良かったと思う。
一方、ハナコの言葉に、ミズカは思わず驚いた表情で顔を上げた。一言でも嫌味を言われても仕方ないと思っている。
「気にしないの。あなたが謝ったら、あなた自身で自分は生まれてきちゃいけなかったと言っていることになるのよ」
ミズカは実際そうだと思った。自分さえいなければ、皆、幸せだったはずだ。自分さえいなければ、皆、笑顔で過ごせていたはずだ。
ミズカが何も返事ができていないのを見て、ハナコは気の毒に思う。そして、ノリタカは何をやっているのかと悲しくなった。
「ミズカちゃんは、そんなに生まれたくなかったのかしら?」
ハナコが聞く。ミズカは、それに対してはすぐに首を横に振った。例え、生まれてきてはいけなかったとしても、生まれたくなかったなんて思ったことはない。
「だったら、もっと自分を大切に思いなさい。誰もあなたが生まれてきてはいけなかったなんて思っていないわ」
ミズカは顔を歪ませた。
「生まれてきてはいけない人間なんていないのよ」
「ママさん……」
「あなたが、皆を大切に思ってるように、皆もあなたを大切に思ってるわ。もちろん、私も。それから、そこの頼りないあなたの兄も。……だから、そんな顔をしないで?」
ハナコの優しい言葉に涙が溢れてきた。今の言葉が心にジンと染みてきた。こんなにも優しく、こんなにも温かく受け止めてもらえたことに、ありがたさを感じた。
「ありがとうございます」
「今度、遊びに来てね。この世界では、私があなたの母よ」
「はい」
もはや、まともに話すことさえ困難になった。ボロボロと涙が流れ、終いには、しゃくりをあげる。
「頑張ってね。サトシ、しっかりミズカちゃんを守るのよ」
「わかってるって!」
泣いているミズカの隣でガッツポーズを見せる。ハナコは、頼りない兄だが大丈夫だろうかと思いながら、電話を切った。
優しい口調で、ハナコは言った。
まさかミズカが電話してくるとは思わなかった。ミズカの気持ちを考えれば、罪悪感でいっぱいだろうと思ったからだ。ただ、ハナコはそんなことを少しも思っていない。
そもそも、向こうの世界から来たという時点で何となく察していた。ノリタカの子供なのではないかと。だから、ハナコは自分のことよりもサトシとミズカがどうなってしまうのかの方が心配だった。
何も知らない息子が楽しそうに旅の話にミズカの名前を出す度に胸が締め付けられそうになった。二人の問題は二人が解決するしかない。果たして、自分の息子にできるのだろうかと。
だから、今、一緒にいる姿に安心している。勇気を持って。電話をしてきたミズカと自分に電話するミズカに付き合った息子にハナコは花丸を心で送る。そういう二人で良かったと思う。
一方、ハナコの言葉に、ミズカは思わず驚いた表情で顔を上げた。一言でも嫌味を言われても仕方ないと思っている。
「気にしないの。あなたが謝ったら、あなた自身で自分は生まれてきちゃいけなかったと言っていることになるのよ」
ミズカは実際そうだと思った。自分さえいなければ、皆、幸せだったはずだ。自分さえいなければ、皆、笑顔で過ごせていたはずだ。
ミズカが何も返事ができていないのを見て、ハナコは気の毒に思う。そして、ノリタカは何をやっているのかと悲しくなった。
「ミズカちゃんは、そんなに生まれたくなかったのかしら?」
ハナコが聞く。ミズカは、それに対してはすぐに首を横に振った。例え、生まれてきてはいけなかったとしても、生まれたくなかったなんて思ったことはない。
「だったら、もっと自分を大切に思いなさい。誰もあなたが生まれてきてはいけなかったなんて思っていないわ」
ミズカは顔を歪ませた。
「生まれてきてはいけない人間なんていないのよ」
「ママさん……」
「あなたが、皆を大切に思ってるように、皆もあなたを大切に思ってるわ。もちろん、私も。それから、そこの頼りないあなたの兄も。……だから、そんな顔をしないで?」
ハナコの優しい言葉に涙が溢れてきた。今の言葉が心にジンと染みてきた。こんなにも優しく、こんなにも温かく受け止めてもらえたことに、ありがたさを感じた。
「ありがとうございます」
「今度、遊びに来てね。この世界では、私があなたの母よ」
「はい」
もはや、まともに話すことさえ困難になった。ボロボロと涙が流れ、終いには、しゃくりをあげる。
「頑張ってね。サトシ、しっかりミズカちゃんを守るのよ」
「わかってるって!」
泣いているミズカの隣でガッツポーズを見せる。ハナコは、頼りない兄だが大丈夫だろうかと思いながら、電話を切った。