27章 覚悟

「サトシ……、そんな深く考えなくていいよ。変に変わろうと思わなくていいし、無意識に変わったところはあたしにだってある。でも、サトシは嫌だって思わないでしょ? あたしも妹扱い、ちょっと新鮮だったけど、嫌じゃなかった」

ミズカは微笑んだ。その言葉にサトシは苦笑する。しかし、肩の荷が降りる。変に力が入っていたらしく、力が抜けていく。やっと互いに笑い合えた。
  
「じゃ、戻ろうよ」
「そうだな」

ミズカとサトシは、ポケモンセンターに戻る道を歩いて行った。それを安心した表情でエーフィとピカチュウは二人を見守った。

ポケモンセンターに戻ると、ミズカとサトシはオーキドに連絡を入れた。まずはオーキドに謝罪。オーキドはミズカの姿を見て、とてもホッとしていた。手伝えることは手伝うとも言ってくれた。

また、チコリータ、プラスルとマイナンにも謝罪した。3匹は安心した様子で、ミズカが研究所に来るのを待っていると言った。

オーキドに連絡をしたが、二人はまだ電話の前にいる。他にも連絡しなければならない人がいるのだ。

「……はぁ」

ミズカは電話の前でため息をついた。受話器を何度も手にし、触れるまでいくが引っ込める。さっきから、それを繰り返している。

「なぁ……。迷ってるなら、やっぱり俺がママに……」
「ちょっと待って! 今、……今! 電話するから」

サトシが面倒になって電話しようとするのを止める。ミズカは、今、サトシの母に電話しようとしている。

「……それさっきから何回言ってるんだよ……。ママも気にしてないって……」

サトシは呆れた表情でミズカを見た。何回も言われている。しかし、彼女の気持ちがわからないわけではない。だから、この茶番を付き合っている。

「サトシのママさんはもう知ってるんだよね……」
「あぁ、ミズカの世界に行くとき、シゲルが言ってた」
「……はぁ」

また、ミズカはため息をついた。しかし、それではまた同じ事の繰り返しだ。

「……よし」

ようやく覚悟を決め、受話器を取った。もう、何を言われても仕方ない。胸が高鳴る。心の奥底から何かが突き上げて来そうだった。

サトシの母には、サトシ以上に悪い事をしたと思っている。彼女の愛する人を奪ったのは自分だ。体が震えてきた。最後の番号を押す。

電話を相手に繋いでいるプルルルルという音を聴き、直ぐ様、ここから逃げたくなった。電話を切りたい。が、切るわけにいかない。

「はい、もしもし」

サトシの母の顔が画面に映り、声が聞こえてきた。

「あら……、ミズカちゃん」

驚いた表情でサトシの母、ハナコは口を開いた。まさか、ミズカが電話をかけてくるとは思ってもみなかった。

「ママ。あのさ、ミズカが……」

隣に実の息子がいた。サトシはミズカの表情と自分の母の表情を気にしながら話す。この時点でサトシは、気持ち的に挟まれた状態だ。

ハナコがどう出るかもわからぬまま、ミズカはまずは言わなきゃいけないことを口にする。

「あの……。本当に、本当に……、ごめんなさい!」

オドオドしていたわりに、「ごめんなさい」はハッキリ言えた。しかし、顔が上げられない。ハナコを見るのが怖かった。
14/18ページ
スキ